トランプ政権が抱える3つの不都合な真実 ロシア疑惑、バブル懸念、軍産複合体

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さらに、米国国防総省のデータでは米国の武器輸出総額は340億ドル(2008年)といわれている。2008年といえば、共和党のジョージ・W・ブッシュ政権時代だが、やはり共和党が政権を取ると米国の武器輸出が増える。米国、とりわけ共和党政権にとって、軍需産業は主要産業の1つになるようだ。

実際、トランプ氏が大統領選に勝利した翌日、軍需産業の株価は暴騰。そもそも米国は、これまでテロリズムを除けばハワイ以外、国土を攻撃されたことがない。したがって、国民が戦争の悲劇さを実感できていない。

米国は第1次世界大戦に参戦して以降、第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争、対イスラム国戦争という具合に、10年に1度の割合で戦争に参加している。

『戦争の経済学』(ポール・ポースト著、山形浩生訳、バジリコ刊)によると、米国の経済規模から考えると「戦費総額とGDP」の関係を見ても、第1次、第2次大戦級の戦争をしないとペイしないともいわれている。ベトナム戦争以後はすべて総戦費がGDPの1%程度にしかなっていないのが現実だ。

戦争を「生業」としている国家ゆえ

にもかかわらず、米国が戦争を続けていく背景には、軍需産業の“消費”を助けなければならない事情がある。米国政府が、頑なに銃規制の強化を拒むのも、戦争をビジネスのメインの1つにしているためであり、戦争を「生業」としている国家であるからだ。銃の乱射事件がどんなに多発しようと、米国は銃社会を放棄できない。

米国の場合、軍需産業を中心とした民間企業と軍、政府機関が連携を組む「軍産複合体」が発達しており、現在も米国の軍産複合体は「北朝鮮特需」に沸いている。

この11月16日、米国の上院は2018会計年度(10月~翌年9月)の国防予算の枠組みを決める国防権限法案を可決。政府案を600億ドルも上回る総額7000億ドル(約78兆8000億円)で可決している。

トランプ大統領が、9月19日の国連総会で「わが軍はまもなく史上最強となるだろう」と発言したことも注目されたが、まさに北朝鮮特需に、米国の軍需産業は空前の好業績を残すのは確実と思われている。

代表的な国防銘柄であるボーイングの株価は、トランプ大統領誕生以来、8カ月で6割も株価が上昇。こうした特需の背景には北朝鮮の無謀な挑発があるのも事実だが、ソ連邦が崩壊し冷戦が終わった時点で、500隻あった海軍の戦艦は2016年には275隻に減少。空軍機も3分の1に減少しており、軍需産業を支持母体に持つ共和党政権としては、世界のどこでもいいから危機を演出して国防費を獲得する必要があったのかもしれない。

とはいえ、米国が世界一の軍事大国であり、そのための努力を惜しまない国家であることは確かだ。日本の防衛省も2018年度予算の概算要求で5兆2551億円を求めている。過去最高の予算案だが、今後日米の貿易摩擦には目をつぶる代わりに、武器を大量に購入することを要求されるシナリオがあるかもしれない。

中東のイラクやシリアは、米国が意図したものかどうかはわからないが、常時戦闘状態となり、武器も激しく消費してくれた。これ以上、中東を混乱に陥れると修復不能になるため、今後はアジアの一画を常時戦闘状態にして、自国の武器を売り、消費させるシナリオがあるかもしれない。

おそらく、これまでの政治経験豊かな米国大統領であれば、武器輸出もスマートに、表面化しないような形で交渉するのだろうが、トランプ大統領はまだ1年未満の経験しかない。アジアが戦場にならないことを祈るばかりだ。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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