京阪の特別車両「プレミアムカー」の成否は? 関西でハイグレード列車は受け入れられるか

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如何ともしがたかった泣きどころは、窓割と座席の関係である。8000系の改造は伊原薫氏の報告(「鉄道ジャーナル」2017年10月号「京阪プレミアムカー改造を見る」)にあるように、京阪電鉄寝屋川工場で自社の手により行われた。もともとの8両編成から6号車を抜き出し、プレミアムカーとする工事を2016年9月からほぼ1年がかりで行うものだった。だが、窓柱の位置を拡大する座席間隔に合わせようとすると、車両の構造部分に手を入れなければならない。アルミ構体の溶接は技術的に難しく特殊設備が必要になるが、そのような工事は寝屋川工場では対応できず、車体をメーカーに戻して行うとすると工程にもコストにも問題が生じる。

アテンダントも乗務(撮影:山下大祐)

そのため、旧来の基本構造は変えずに改造することになったが、着座すると目の前が窓柱といった席が生じてしまった。外観は窓周りにブラックアウトの手法を用いたのでさほど目立たないものの、乗車してみると塞いだ大阪側ドアの位置、とくに12・13番あたりの席はわずらわしい。逆に最適のポジションを挙げるとすれば、京都行きなら7番と9番あたりとなる。

そこで京阪としても、ホームページのプレミアムカーサイト、「車両紹介」において、窓と座席の関係を図示している。ドア付近や車端は背面テーブルがないため、壁面テーブルや肘掛収納のテーブルを設けた席も示しており、鉄道ファンの観察眼をくすぐる点でも興味深い。なお、窓口販売では、座席表を見ながら指定できるので、とくに遠方から試乗に出向くなら事前のチェックをお勧めする。

オリジナル商品が人気

座席の網ポケットには、車内サービスの案内も差し込まれていた。編成中に1両、定員は40人と少ないので、飲食関係のサービスはない。だが、小一時間を快適に過ごすために深紅のブランケットの貸し出しや無料Wi-Fi、オリジナル商品の案内が記されている。商品には黒に金でまとめた扇子や座席の生地で作ったブックカバーがあり、前者が 4000円、後者が2000円とそれなりの値段。しかし、車両の高級感を味わった後の記念品として好調な売れ行きのようで、初回ロットが売り切れた品もあるそうだ。

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座席周りをさまざまに見入っていると、力強い黒の窓の下は対照的に柔らかな和紙調の柄であり、日除けを下げると屏風絵に描かれる雲の柄であった。京都へ向かう電車として“らしさ”がふんだんに織り込まれている。

乗客は京都での仕事や用務に向かう女性連れ、夫婦、男女それぞれの1人客などで、時間帯のせいか女性の比率がやや高い。女性の評価は影響力が大きい。セールスレディと思しき3人連れは横並びの席を確保し、飲み物を口にしつつ談笑している。観光の夫婦のご主人はカメラを手に車内を撮影しており、男性ビジネスマンはテーブルにパソコンを開いている。通勤列車とは異なる光景が展開する。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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