1口1万円、「小口不動産投資」で何が変わるか 新興企業トップにロングインタビュー

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村上:その感覚は非常によくわかります。おカネと案件の仕入れが多様で、かつ労力が少なければ、パフォーマンスは出て当然ですね。

岩野:そのとおりです。今の大手不動産会社さんは、もしかすると1億円や2億円といった規模のおカネを個人から集める意義がどこにあるのかと思っていらっしゃるのかもしれません。ただ、現時点だけを見るのではなく、将来を含めて考えれば、集まる資金が10億や100億になり、1000億になる可能性だってあると思っています。スピードは遅くても、積み重なっていく強さって非常に大きいんですよね。

村上:サブスクリプションモデルやストック型のビジネスと同じですね。

岩野:われわれは特に、30代や40代のサラリーマンの方々が、50万円や100万円といった規模で不動産投資できるマーケットを整えようとしています。彼らからすれば、煩雑さなしに運用できて、シンプルに4~5%の利回りを得ることができます。そうしたニーズはいくらでもありますし、もしも国外にも出て行くことができれば、そうしたニーズはさらにいくらでも広がっているんです。現時点では数億円にしかすぎませんが、果てしなく大きいマーケットです。不動産とクラウドファンディングの相性は非常にいいので、数兆円のマーケットになる可能性がある。だから、時間をかけてでも着実に進んでいきたいと思っています。もし今の資本市場が、そういった可能性まで見て評価していただいているのであれば光栄ですね。

投資単位はどのように決めた?

村上:ネットの強みとして固定費が小さいことを考えれば、投資単位はかなり小さくてもいいはずです。OwnersBookの1万円という投資単位はどのように決めたんですか?

岩野:最初は10万円でやろうと考えていたんですが、たまたま家に来た後輩に話したところ、「僕、貯金10万円もないですよ」って言われたんです。「じゃあいくらなら出せるんだ?」と尋ねたところ、「せいぜい1万円ですよ」と言われて、「じゃあわかった」と1万円に設定したんです。システムを組んでしまえば1万円も10万円も100万円も変わらないので、小さい単位のほうが良いかなと。ただ、あまり小さくなると最後に端数が余る可能性があります。これまでにOwnersBookで数千万円募集してすごい勢いで完了すると思ったら、例えば最後の2万円分だけ調整が入ってなかなかぴったり埋まらない、といったこともありました。だから、あまり刻みすぎるのも不便になっちゃうんですよ。

村上:御社の事業が直面するリスクの幅は広いのでしょうし、だからこそリスクに対して慎重に取り組まれているのだと感じます。その中で、いちばん怖いと思うリスクは何でしょうか? テクノロジーの世界でもあるので、競争環境の変化や競合の出現など、リスクシナリオとして見ているものはありますか?

岩野:競合はまったく心配していませんね。むしろもっと来てほしいし、そのほうが市場の活性化につながります。ただマーケットが大きい分、ちゃんと不動産市場を理解している人達と一緒にマーケットを育てていきたいとは思っています。リスクと考えるのは、法的なリスクや制度のリスクですね。ルールが変わるといくら準備してもできないので、そういう制度的なリスクにはしっかり対応していく必要があります。

村上:なるほど。まさにこれからマーケットを開拓していかなければというタイミングですからね。

お話を伺っていて、おカネを扱う事業者だからこその高い規律や、金融危機を経験されたからこその着実な姿勢といった印象を強く受けました。今日はありがとうございました。

(ライター:石村研二)

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シニフィアンスタイル(Signifiant Style)は、起業家、上場企業経営者、バンカーといったバックグラウンドを持つメンバーによって創業された、シニフィアン株式会社が運営するビジネスメディア。シニフィアンでは、IPO後もなお精力的に事業を成長させ、新たな産業の創出と発展に寄与しようとする意志を持った会社のことを、”Post-IPO Startup”(ポストIPO・スタートアップ)と定義。ポストIPO・スタートアップの活躍こそが、日本におけるスタートアップ・エコシステムのさらなる拡充と、日本経済の発展に不可欠であると考えています。シニフィアンスタイルでは、ポストIPO・スタートアップの事業活動や経営に関する知見の情報発信に取り組んでいきます。本サイトはこちら

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