仕事のできない人は数字の読み方を知らない 「当社比120%」に踊らされていませんか

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このあいまいさをうまく利用した例として、あえて数字等を用いず「わかりにくく伝える」京都の舞がある。

舞妓に踊りの指導をする際、師匠は「ひじを〇度に曲げて」とか「●秒動いてストップ」といった伝え方はしない。

その代わり、「舞い散る雪を拾うように、扇を動かしなさい」といった指示の仕方をするそうだ。

これは、情報を出す側と受け取る側でイメージが完全に合致していない。だからこそ「その人らしいユニークさ」が踊りに付加され、その人らしい舞となって文化が続いていく。

このような伝え方に用いられる表現を「わざ言語」といい、共通する経験さえあれば、非常に腑に落ちる、時に「数字以上にわかりやすい」表現となる。

「わかりやすい説明」に数字は必ずしも必要ではなく、むしろ「わざ言語」など体感に根付いた言葉を用いたほうが説得力は増し、同時に親近感も醸し出せる「1対1」感を強めるコミュニケーションツールとなりうるのだ。

経営者の話が「無味無臭」なわけ

時々、経営者インタビューなるものを見ていて「うーん」とうなることがある。

率直にいって無味無臭なのだ。

数字等を使って万人に平等に伝わるように話されている分、守秘義務もあるだろうから個人としての感覚がそぎ落とされ、「万人向け」という部分が「せっかくトップが話す特別感」を薄めているように感じる。

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もちろん「解釈が一意に定まる」という点で、わかりやすく大勢の人に説明するうえでは利点となっているのだろうが、一個人として受け止めたとき、「もっと個人として本当に思うこと」を聞いてみたい、と思ってしまう。

発信側は「大勢の読者」を想定していて、一読者としては「私と社長」という縮図がある。発信者と読者の頭の中は明確に違っているため、この違和感は仕方がないと割り切ってはいるのだが。

「数字ですべてを語る」のは無理な話なのであり、「数字があれば安心」と数字自体に目的を置かないよう注意したい。

そして、消費者をはじめとする「数字表現をされる側」になったときも、この数字の性質を理解してこそ、発信者が用意した「都合のいい数字」にまんまと誘導されることなく、賢い選択ができる確率が高まるのである。

川上 浩司 京都大学デザイン学ユニット特定教授、博士(工学)

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かわかみ ひろし / Hiroshi Kawakami

専門はシステムデザイン。1964年島根県出身。京都大学工学部在学中に人工知能(AI)など「知識情報処理」について研究し、同修士課程修了後、岡山大学で助手を務めながら博士号を取得。その後、京都大学へ戻った際、恩師からの「これからは不便益の時代」の一言がきっかけで「不便がもたらす益=不便益」について本格的に研究を開始する。不便益研究の一環として作成した「素数ものさし」(目盛りに素数のみが印字されたものさし)は、その特異性から話題を呼び、京都大学内のみでの発売にもかかわらず、3万本以上の販売を記録している。著書に、『不便から生まれるデザイン』(化学同人)、『ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか?~不便益という発想』(インプレス)などがある。

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