神戸製鋼の「調査報告書」では何も解決しない 責任は現場に押し付け、原因究明も不十分

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今回の報告書はどこまで実効性があるのか。そもそも外部調査委が新設されたのは、10月20日にアルミ・銅部門の長府製作所で自主点検の妨害行為が内部通告で発覚し、社内による自主点検の適正性、妥当性に大きな疑義が生じたためだ。今回の報告書はそうした疑念の強い社内調査を基にしており、客観的な信頼性に疑問が残る。

報告書ではアルミ・銅部門ばかりが”悪者”にされている。確かに、改ざんが圧倒的に多いのは同部門だ。しかし、主力の鉄鋼部門や機械部門でも同様の問題が発覚している。今回の不適正行為は、本当に全社的な問題ではなかったのか。

アルミ・銅部門で改ざんが多かった要因の一つとして、同部門が低収益でグループの足を引っ張ってきたことが挙げられる。だが、1998年度以降の部門別利益を見ると、アルミ・銅部門が赤字なのは2008年度だけ。むしろ、鉄鋼部門や建設機械部門のほうが赤字は多い。アルミ・銅部門が低収益に悩んだ挙げ句に暴走した、ととれるような記述は説得力に欠ける。

本当に現場だけの責任なのか

最大の疑問は、川崎氏を始めとした経営責任だ。今のところ川崎氏をはじめ取締役会は改ざんを横行させた管理責任は認めているものの、改ざんを指示したり、改ざんを黙認したりしたことについては認めていない。

会見は約2時間に及んだが、信頼回復につながったとは到底言えない(撮影:風間仁一郎)

今回の会見でも、川崎氏がアルミ・銅部門の不正を知ったのはあくまで今年の8月末であると繰り返した。報告に来た担当副社長も「寝耳に水と言っていた」(川崎氏)。

ただ、本当に工場の現場だけに改ざんの責任を押し付けられるものなのか。改ざんは少なくともおよそ10年前から存在したことを同社は認めている。現役の役員や役員OBの多くが工場で働き、幹部を務めた経験がある。彼らが改ざんにまったく関与しなかったのには、どうしても疑問がつきまとう。「現役役員や元役員にもヒアリングをしたが、まだ調査途中だった。あとは外部調査委が調査を継続する」(川崎氏)というが、外部調査委がどこまで厳格に追及できるかは定かではない。

川崎氏は「神戸製鋼の信頼はゼロに落ちた」と述べる。しかし信頼を回復する第一条件は、真実を明らかにし、ウミを出し切ったうえで、真に有効な再発防止策を講じることだ。まだまだ先は長いと考えざるを得ない。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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