世界の中央銀行はトランプ大統領から学べ あまりにコミュ力が低すぎる

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だが、個人や一般家庭、中小企業についても同じことが言えるだろうか。消費者が抱える負債は積み上がっている。実際に利上げが行われれば、金融市場以上に消費者が過敏に反応するリスクは明確に存在している。

もちろん、中央銀行は通常、消費者に直接語りかけることはない。中央銀行のメッセージは、テレビや新聞などを通じて一般の消費者に届けられる。

中央銀行の言葉は、一般の人たちにはわかりにくいものなのだ。最近のスピーチで、イングランド銀行のチーフエコノミスト、アンディ・ホールデン氏が興味深い調査結果を紹介している。中央銀行のメッセージがどの程度、理解されているか調べたものだ。調査ではまず、中央銀行の公表文書を理解するのに必要な読解力を調べ、次にどれだけの人が、そうした読解力を身に付けているかを調べた。

中央銀行のメッセージは伝わっていない

結果は驚くべきものだ。トランプ米大統領が選挙戦中に行ったスピーチを理解できる人が人口の約7割に上るのに対して、米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録を理解できる人はわずか2%。主要メディアが金融政策について報じた記事ですら、2割強の人しか理解できないという。

ECBについては比較可能な統計が存在しないが、結果は同じようなものだろう。

中央銀行は近年、メッセージの伝え方を工夫してきた。それを考えるとさんざんな成績だ。イングランド銀行の総裁が、決定内容を適度にわかりにくくすることに誇りを覚えていたのは、それほど昔のことではない。ここ20年で、そうしたひねくれた考えは消え失せたとはいえ、ホールデン氏は、さらなる努力が必要だと言う。

今日ではソーシャルメディアを含め、ニュースを知る手段が多様化している。中央銀行は、これまで相手にしてこなかった人たちをも視野に入れ、従来とは違ったメディアを用い、説得と同じくらい対話を行わなければならない、というのがホールデン氏の主張だ。

これが可能であることを示したのがトランプ氏である。同氏のメッセージの発し方は、確かに有害な結果を伴うことが多い。だが、FRB次期議長に指名されたジェローム・パウエル氏にとって、トランプ氏が切り開いたコミュニケーション手法を見習うことは一考に値する。

ハワード・デービス 英ナットウエスト・グループ(旧RBS)会長

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Howard Davies

英中央銀行副総裁、FSA(英金融サービス機構)初代理事長、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)学長などを経て、2015年から現職。

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