「ワンオペ育児」を単なる流行語で片付けるな 育児は「休暇」という考えは間違っている

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出口:わたしは、少子化対策の基本は、出生率を2.0までに回復させたフランスの「シラク3原則」(下表)の実行につきると考えています。この原則に照らすと、育児休業がキャリアの中断というのはおかしいし、ましてやランクダウンなどはあってはならないことです。

フランスでは育児休業は留学と一緒。賢くなって帰ってくるのだから、ランクアップしてあげてもいいくらいだ、という考え方です。「シラク3原則」にも「育児休業中は働いたものとみなす」という法文を入れてあり、10人中2番の人は、最低でも2番のまま戻れるということを、きちんと法制化している、というわけです。

中原:これは、素晴らしいですよね。

エピソードよりもエビデンス

出口:お2人が書かれたこの本は、「育児経験のある人のほうがマネジメントの仕事に興味を持つようになる」といったことを、きちんとした調査を踏まえたデータで示しているところがすばらしいと思いました。僕はいつも「エピソードよりエビデンス」と言っています。

エピソードはいくら連ねても、反対のエピソードを同じ数だけ挙げられたら水掛け論になってしまいます。データできちんと示してあれば、反論のしようがないですから、説得力があります。やはりエピソードよりエビデンスだと思っているので。

浜屋:ありがとうございます。私には子どもが2人いるのですが、共働きで育児をする中で大変なことは山ほどある一方で、「これはマネジメントにつながっているな、仕事に役立つな」という実感もじわじわ芽生えてきたのです。実際、世の中を見てもそうした経験談は結構ありました。ですが、そのことをデータで示したものは探してもなかなか出てこない。そこで「ないなら、いっそ自分が作ろうか」と思い立ったのです。

データがあれば、人にも伝えやすいし、狭い当事者の世界で「育児って結構、仕事の役にも立つよね」と励まし合うことにとどまらず、もっと広い世界でも通じる言葉になるのではないか?という思いで中原先生の研究室をノックし、何とか入れてもらったというのが、研究を始めたきっかけです。

中原:データにこだわって書いているというのは、やはり経営者や経営企画、人事担当者に届けたいという思いがあったからです。やはり、数字を出して経営のロジックに乗せていかないと、会社の中は変わりません。経営者を動かすためには、この問題を、徹底的にデータと経営のロジックに「翻訳」していくことが重要なのです。

浜屋:「チーム育児」をする中で、パパとママで役割分担を決めたり、お互いの仕事の状況や子どもの体調などに合わせてスケジュールや役割を調整するなど「協働の計画と実践」を行うことや、親族、保育所、ベビーシッター、病児保育、ママ友やパパ友……など「家庭外との連携」を行うことが、リーダーシップの発達を含め、仕事上の能力向上にプラスの影響を与えている。「家庭外との連携」を自ら積極的に行った経験は、マネジメント的役割を担うことの魅力を認識することにつながっている、といったチーム育児の効果を多くの経営者の方々に知っていいただきたいのです。

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