所得税の控除はなぜこうもフェアでないのか 世代の違い、収入の違いで、生まれる税金の差

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われわれが得た課税前の所得(専門用語では「収入」という)は、何の控除もなしに、いきなり所得税が課されるわけではない。特に給与収入と公的年金等収入には、それぞれ独自の控除が設けられている。それが給与所得控除と公的年金等控除だ。「給与所得控除」は平たく言えば、働いて稼ぐのにいろいろと経費がかかるから、その経費を概算で収入から差し引いて所得税の負担を軽減する、というものである。「公的年金等控除」も同様に、収入から経費を控除することによって、所得税の負担を軽くする狙いがある。

ただ、公的年金を受け取るのに、働いて稼ぐときにかかるような経費は、実際にはほとんどかかっていない。なのに公的年金でも、給与所得と同様、概算控除が認められている。確かに公的年金等控除は、標準的な年金以下の年金のみで暮らす高齢者世帯に配慮を行うための所得税軽減措置というのが公式的な見解だが、所得税制では給与所得控除と同じく、所得計算上の控除という位置づけになっている。

ちなみに、所得税をいくら払うかという計算は、課税前の収入から、所得計算上の控除と、所得控除(人的控除や医療費控除、社会保険料控除といった実費控除が含まれる)が差し引かれ、残った金額が所得税の課税対象となる課税所得となり、これに税率がかけられて算出されたものが税額だ。さらに、その算出税額から、住宅ローン控除などの税額控除が差し引かれて、実際に支払う所得税額が求められる。所得控除と税額控除の違いについては、本連載の「所得税改革は、「配偶者控除」だけではない」に詳述されている。

高齢者向けの控除のほうが手厚い

話を所得税改革に戻そう。

以前から問題視されているのは、高齢者しか使えない公的年金等控除が、給与所得控除よりも手厚くなっている点だ。この問題点はすでに、2013年8月に取りまとめられた「社会保障制度改革国民会議報告書」(および同報告書概要)でも指摘されており、世代間格差を助長する一因となっている。公的年金等控除の額と、給与所得控除の額を比較すると、次のようになる。

給与収入だけ受け取る者は、収入が162万円までは、最低限である”65万円”の給与所得控除が受けられる。収入が162万円なら、65万円が差し引かれて97万円の給与所得となって、その後、人的控除や実費控除が差し引かれる。

一方、65歳以上の年金収入だけ受け取る者は、収入が330万円までは、最低限である”120万円”の公的年金等控除が受けられる。この控除金額は、給与所得控除よりも多い。つまり、同じ課税前収入が162万円の人でも、年金収入だけなら、控除後の公的年金等の所得は42万円となる。給与収入だけ受け取る者と比べると、ほかの控除が同じなら、年金収入だけ受け取る者の課税所得は、55万円(=97-42)も少なくて済み、それだけ所得税負担は軽くなるというわけだ。

ただ、給与収入なら162万円、年金収入なら330万円を超えると、収入額が増えるほど控除額は増えるが、その増え方は緩やかとなる。どちらも収入が490万円なら、控除額は125万円と同じである。490万円より多く収入を得ると、今度は給与所得控除のほうが、公的年金等控除より控除額は多くなるのだ。

さらに高所得者層になると、給与収入では、収入が1000万円を超えると給与所得控除は220万円で頭打ちとなり、それ以上給与収入が増えても、給与所得控除は増えない。年金収入だけだと、収入が1290万円なら公的年金等控除は220万円となり、それ以上収入が増えても控除は増え続け、控除額は220万円を超える。つまり、公的年金等控除には上限額がない、ということである。

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