「無意味で過剰」な放送が日本にあふれる理由 駅ホームで「京都、京都です」の放送は必要か

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日ごろ温和なわが同胞たちは、同時に世界でも屈指の「むずかしい」顧客であって、商品に対する注文がものすごく高い。とくにサービス業に対する注文は、唖然とするくらい。最近になってやっと、駅員に暴力を振るう乗客のことがじわじわ知られるようになりましたが、私は30年も前から知っていた。胸ぐらをつかまれたり、頭から怒鳴られたり、殴られたり……それも、ほとんどが、駅員の「態度が悪い」というのだから、あきれてしまう(ある駅長室には、乗客から「避難する」方法がこと細かく書いてありました)。

過剰品質なくらい、質の高い日本のサービス

長いヨーロッパ滞在により、彼の地のサービス従業員の態度の悪さを身に染みて感じていますので(何度も殴りたくなった!)、それに比べるとわが国の駅員も、タクシーの運転手も、デパートの店員も、スーパーの店員も……、気持ちが悪いくらい態度がいいのですが……。

ここで、ちょっと脱線しますが、経験のある方も多いかと思いますが、(南ヨーロッパではなく)ドイツやオーストリアでは、ものを聞くと少なからぬ場合にきわめて不愛想な態度で拒否される。ウィーンのスーパーで「トマトケチャップどこにありますか?」と店員に聞いても、うるさいなあという表情で、「あっち」と指さすだけ。私は何度も「それじゃわからないじゃないか!」と抗議しましたが、わが国では、必ず「そこ」まで連れていってくれますよね。

少なからぬヨーロッパのタクシーの運転手は恐ろしく不愛想で、乗るときちょっと不安を感じるほどですが、それに比べるとわが国のタクシーの運転手の礼儀正しさは感動的です。しかし、それにもかかわらず、乗客の中には、ネクタイをしっかり締めていない、とか、ワイシャツの腕まくりしていることは許せない、と言ってネチネチ責める人がいるそうです。

いいでしょうか? あのエスカレーターや駆け込み乗車禁止の放送は、総選挙の結果のように、国民の声に裏づけられているのであって、だから、その廃止は難しいというわけです。それに関して、全国に流れるこうした「管理放送」をほとんどの人が気にかけていない、というのも大ウソです。みんな、しっかり聞いて許容しているのです。ウソだと思うなら、そうですね、「車内では、人を殺さないでください」とか「車内では全裸にならないでください」という放送が流れたとしたら、わが同胞はけっして黙っていないことでしょう。

昨年のことですが、南海電鉄の車内で「本日は外国人のお客さまが多く乗車し、ご不便をおかけしております」という内容の放送が流れたとき、抗議が殺到し、ワイドショーでも長々と取り上げていました。

次ページ「万が一」がなくても流され続ける無意味な放送
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