群馬の最北端で見た新たな「観光資源」の正体 農家が宿泊者受け入れる「農泊」が町を変えた

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「地方創生」戦略の中で、「地方創生インターンシップ」を活発に展開するという施策にも注目している。インターンとは、期間を設けて実務現場で研修を受けることであり、「企業インターンシップ」はすでに広く普及し、大手企業の採用シーンでは、これが重視されている。その仕組みを、地方創生の現場にも適用し人材還流と地域人材の定着に寄与させようというのが、この「地方創生インターンシップ」である。

みなかみ町

地方の活性化、地方創生には、内的な変革が埋め込まれ、連鎖反応を続けていくことが不可欠である。それを仕掛け、運営し、進化させる力は人材にある。そう考えると、この施策に参加する学生の存在は、地域活性の触媒になりうるかもしれない。

みなかみ町でもいくつかの大学から、何名かの学生がインターンとして訪れ、そのまま地元の会社に就職しているケースもある。

都会の大手企業さえ人手不足の今日、地方で、それも中山間地域の企業・農業法人などに目を向け、足を運ぼうとする学生は極端に少ないが、関心は低くない。

「地方、過疎地のほうが、個性や能力が活かせるかもしれない」と考えている学生も潜在しているはずだ。ただ、情報が少なく、カリキュラムや受け入れ体制など、もろもろの環境条件の整備が遅れているのは課題だ。

ロールモデルのみなかみ町

『みなかみイノベーション―群馬県みなかみ町に見る農泊を核とした観光まちづくり』(あさ出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

日本の中山間地域には「ヒト・カネ・モノ」がない。世界遺産級の自然・文化・産業遺産があるとか、大河ドラマの舞台になったとか、集客力のある「地元B級グルメ」とか、聖地・パワースポットなどの観光資源に恵まれているところは、ほんのひと握りである。それらが一過性のにぎわいで終わらず持続的にリピーター層を形成できているところは、さらに少ない。

みなかみ町もまた、めぼしい観光資源があるわけではないが、「農泊」は、「コト」(体験)を打ち出したことで活路を見いだした。そして住民たちは新たな「働き甲斐・生き甲斐」を見いだしている。みなかみ町に生まれたのは、こうした人的ネットワークという資産だ。

少しずつでも収入や雇用など成果の手ごたえを感じることができ、持続可能な方法であるみなかみ町の「農泊」は、どこの中山間地域でも無理なく取り入れられる。みなかみ町の「農泊」が生み出したのは、「地域イノベーション」の1つと言っても大げさではない。

鈴木 誠二 法政大学地域研究センター客員研究員

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すずき せいじ / Seiji Suzuki

東京成徳大学経営学部講師。法政大学大学院政策創造研究科博士後期課程満了。業界の変革期に直面した事業会社において、研究活動と連動したさまざまな事業開発経験を有する。現在は、担い手教育に勤しみながら、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)に所属し、次世代ユーティリティの発展に取り組んでいる。

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