人間は「悩むこと」から解放されるだろうか 人間をお休みしてヤギになってみた

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まず彼が向かったのは、バターカップと呼ばれる虐待されたヤギのための保護施設。ここで彼は、ヤギ行動学のエキスパートからプロジェクトの運命を左右する衝撃の事実を聞かされる。なんとヤギはストレスを感じることができ、しかもストレスを感じている時は鳴き声も変化させるというのだ。

ヤギにない、人間特有の思考とは何か?

このままではヤギになったとしても、本来の目的を達成することは出来ない――そう悟った彼は、ここから人間特有の思考とは何かということへ傾倒していく、それは、過去や未来といった時間軸を移動させながらシナリオを生み出せるという能力にあった。

要は、心の中で時間旅行できるという能力が、我々人間を知性溢れる策略家にしてくれるものの、同時に悩ませ、そして後悔させることにもつながっているのだ。ヤギならば、我々のように「これから一体何が起きるのだろう」などと未来に対する不安を感じることはない。

ブローカ野を刺激することで、ヤギ体験の一端を味わうものの…

ならばシンプルに時間の感覚を切ってしまえばいいのでないかと結論付けることも驚きなのだが、そこから言語神経科学の研究者のところへ直行することも想定外である。経頭蓋磁気刺激(TMS)というプロセスを使い、一時的に脳仮想病変を引き起こし、シナリオを想像する部分と言語を使う部分に影響を与えることを試みるのだ。

続いて彼は、プロトタイプの製作へ着手する。自分自身だけでは上手く行かず、獣医科専門大学の「構造と運動」に関する研究者に相談してみる。そこで教わったポイントは、体重の60%を前脚に、40%を後ろ足にかけるということ。

前脚を強くするために、空洞の繊維ガラスの骨を前腕に挿入してみたり、細長い中手骨の代わりにアルミ管をつけてみたり。徐々に、脚と蹄の完成へ近づいていく。

(左)プロトタイプ1型 (右)プロトタイプ2型
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