強引にリフレ政策を進める、安倍政権の末路 インフレ下の景気後退局面では、中央銀行は何もできない

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その結果、インフレで国民生活がかなり傷んできています。ブラジルは、BRICsの中で唯一格差の拡大があまり顕著ではない国として評価されていました。それが今や、止まらぬインフレによって格差拡大が進もうとしているのです。

ブラジルの政府や中央銀行の行動を見ていると、現在、金融政策を引き締めたらいいのか、緩和すればいいのか、わからなくなっていることがうかがえます。しかし、景気減速が進んでいる中でインフレが進んでいるのですから、正しい答えなど見いだせるはずがありません。

いったんインフレが加速したら、制御できなくなる

これは、強引にリフレ政策を進める現在の安倍政権にもあてはまることです。インフレになれば、ブレーキを踏めばいいのだと簡単に言うのですが、ブレーキを踏んだところで、いったん加速してしまったインフレを制御できないのは、過去の歴史が証明しています。

景気後退の原因になるまでインフレが進んでしまい、そこで金融を引き締めてインフレを抑えようとすれば、さらなる景気の悪化を招き、もっと悪い結果を導いてしまうのです。おそらく、ブラジルも同じ行程をたどることになるでしょう。

ことほど左様に、インフレとは恐ろしいものなのです。景気減速、景気後退までインフレが進んでしまうと、もはや金融政策ではいかんともしがたいわけです。
 これからのブラジルの結果を見るまでもなく、インフレを抑えようとして景気が悪い状況で金融の引き締めを行うと、景気がさらに悪化し失業率が高くなってしまいます。国民の生活はいっそう苦しくなります。

反対に、景気の浮揚を狙って許容できないインフレの中で金融の緩和を進めると、通貨安が定着しインフレに国民が苦しみ続けることになってしまうのです。どちらの選択肢を取っても、やはり国民生活には受難が待ち受けているわけです。

したがって私は、こういうときには、中央銀行は引き締めも緩和もせずに静観するのがいちばん無難であると考えています。ただし、政府に国が成長するための政策を実施するように働きかけることは、忘れてはなりません。

中原 圭介 経営コンサルタント、経済アナリスト

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なかはら けいすけ / Keisuke Nakahara

経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。「総合科学研究機構」の特任研究員も兼ねる。企業・金融機関への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に努めている。経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析しており、その予測の正確さには定評がある。「もっとも予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、ファンも多い。
主な著書に『AI×人口減少』『これから日本で起こること』(ともに東洋経済新報社)、『日本の国難』『お金の神様』(ともに講談社)、『ビジネスで使える経済予測入門』『シェール革命後の世界勢力図』(ともにダイヤモンド社)などがある。東洋経済オンラインで『中原圭介の未来予想図』、マネー現代で『経済ニュースの正しい読み方』、ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』を好評連載中。公式サイトはこちら

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