メディアを襲う"破壊的イノベーション" 読者・視聴者を3分の1失ったアメリカの報道機関

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首都ワシントン、ホワイトハウスの真北にある瀟洒なオフィスビルにあるピュー・リサーチ・センター。独立系調査機関で、メディア調査部門PEJ(Project for Excellence in Journalism)が2004年から毎年、米メディア業界の現状を調査した報告書「The State Of The News Media」をまとめている。この10年間に何が起きているのか。

「米国のニュース・ビジネスは、真の意味で崩壊しました」と、報告書執筆者でPEJディレクターのエイミー・ミッチェル氏は言う。読者減から収入減につながる崩壊にいたった「変化」は3つの形で表れた。

1) 収入構造の変化

読者、視聴者はオンラインに流れたのに、オンライン広告収入は、従来の広告収入に匹敵するものではなかった。

2) 読者、視聴者の変化

ニュースを受け取るだけでなく、ソーシャルメディアを使って、頻繁にシェアし、自分の感想や知識を、ニュースに「加える」ようになった。

3)プラットフォームの変化

「いつでも」「どこでも」ニュースが手に入るスマートフォンやタブレット端末といった新しいプラットフォームが登場した。

新聞を見限る、高学歴で高収入の男性

さらに恐ろしいことに、2013年報告書は、崩壊によって生じた報道のパワー不足を、読者・視聴者も認識しているという調査結果を明らかにした。

ピューが今年2000人の成人に対して行った調査では、31%の回答者が、「かつて慣れ親しんだ内容のニュースや情報がもはや得られないので、以前みていたニュース源を離れた」と答えた。実に3人に1人だ。

新聞やニュース番組を見限ったこれらの市民は、高学歴で高所得の男性に多い。しかも、彼らは報道機関が財政的に困難な状態に陥っているのをよく理解している層とも一致する。つまり、報道機関が苦し紛れにニュースをつないでいる状況を見抜いたうえで、オンラインのほかの情報源に移っていった。

収入構造の変化で打撃を最も受けたのは、新聞業界だ。1県1紙体制が確立した日本と異なり、米国はひとつの市、郡、州の中に複数の新聞が発行されている。しかし、新聞業界紙エディター&パブリッシャーによると、1983年に全米で1730紙発行されていたが、2011年には1382紙と、30年あまりで348紙が消えた。

消えたのはコミュニティ紙など中小ばかりではない。新聞業界の不振に関する情報を集めたサイト「ニュースペーパー・デス・ウォッチ」によると、新聞の廃刊は大都市圏にも及び、ロッキー・マウンテン・ニューズ(コロラド州州都デンバー)をはじめ2007年以降、12紙も姿を消した。ロッキーは創刊から150年の老舗新聞でピュリッツアー賞も受賞しているが、売りに出されたうえ、買い手が現れず2009年廃刊した。

ピューによると、全米で2003年に5520万部あった週日の発行部数も、2012年には4430万部に激減している。

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