製作費30億円!“最強”観光列車の実力 JR九州の豪華寝台列車「ななつ星」始動へ

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ただし、あまりにも豪華な車両だけにメンテナンスは大変そうだ。鏡面のように輝く外装は1回運行するだけに汚れがそうとう目立つに違いない。次の運行までに細部までピカピカに磨き上げる必要があるだろう。車内の調度品も繊細なものが多く、清掃のしやすさを考慮して作られた従来の車両の内装とは明らかに異なる。

客室乗務員のサービスが追いつくのか

さらにいえば、豪華な車両に客室乗務員のサービスが追いつくか、という問題もある。もともとJR九州の客室乗務員のサービス水準の高さには定評があるが、「ななつ星」ではさらにサービスのレベルが上がっていないと、乗客は満足しないかもしれない。唐池社長もこの点は認めており、「ハード(車両)は世界一。あとは、運営する側のおもてなし、車両の手入れ、メンテナンスといったソフトがハードをしのげるかにかかっている。私たちに緊張感を与えてくれる車両だ」と言う。

「ななつ星」をはじめとして、JR九州の数々の観光列車をデザインした水戸岡鋭治氏にとっても、自身の集大成といえる出来栄えとなった。「ななつ星」のような豪華寝台列車が実現したのはなぜかと問われた水戸岡氏は、「JR九州だから」と答えた。「優れたデザインを生み出すデザイナーはたくさんいる。ただし、どんなによいデザインがあっても、リーダーがいないと決定しない」。

ただし、水戸岡氏の発言は杞憂に終わるかもしれない。数年前ならいざ知らず、観光列車戦略が当たった「JR九州に習え」とばかり、鉄道各社が観光列車の投入を打ち出しているからだ。

近畿日本鉄道が今春に投入した観光特急「しまかぜ」も伊勢神宮の式年遷宮も相まって、“予約の取れない”人気列車となっている。また、JR東日本とJR西日本も豪華寝台列車の新規開発を発表している。その内容は明らかではないが、「ななつ星」を意識しているのであれば、現在の「カシオペア」や「トワイライト・エクスプレス」を超える可能性がある。

観光列車で鉄道各社が競い合う状況になれば、鉄道だけでなく国内の観光産業全体が盛り上がるに違いない。

(撮影:梅谷 秀司)

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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