ゆとり世代の転職が絶えない「本当の理由」 「自分らしいキャリア」を社会が煽っている

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1997年に労働省(現・厚生労働省)が実施した「若年者就業実態調査(対象は30歳未満の労働者)」では、「初めて勤務した会社で現在勤務していない」と回答したのが28.2%だったのに対し、2013年の厚労省による「若年者雇用実態調査(対象は15~34歳の労働者)」では、対象者の約半数(47.3%)が、勤務していないと答えている。2つの調査の回答を25~29歳に限定しても、1997年調査では同34%であったのに対し、2013年調査では同45%となっている。

若年層の転職が増えている背景に、非正規雇用者の増加があるのはよく知られたことだろう。「一般的に不安定で離職や転職が多くなる非正規雇用者の増加が、見かけ上の労働市場の流動化を促している面がある」と教育社会学者の中澤渉は指摘している。ただ、非正規雇用の増加だけがその理由ではない。リクルートワークス研究所が実施している「ワーキングパーソン調査」によれば、正規雇用の若者に関しても転職者は増加している。

若者は我慢が苦手だから転職するのか?

転職者へのインタビューで彼らに転職理由を聞くと、彼らはよく「自分らしいキャリア」という言葉で説明する。「自分がやりたい仕事」「自分の個性が発揮できる仕事」「自分ならではの仕事」を重視する姿勢が見て取れる。そうした若者に対し年配社員たちは、「下積みの時期やトレーニングがあってこそ、大きな実績や成果を出せる」という考えの下、転職していく部下を「わがまま」で「自分勝手」と思うケースが少なくない。

今の若者が昔より転職するようになったのは、本当に「我慢が苦手だから」「移り気だから」「やりたいこと探しが好きだから」なのだろうか。より広い視野で「若者の転職」をとらえると、違う理由も見えてくる。それは「転職しようという意思が芽生えやすい社会構造に変化したから」という理由だ。

転職市場に影響を与えた社会構造の変化とは、「少子高齢化社会の到来」と「企業間競争のグローバル化」である。この2つの変化がなぜ若年転職者の増加につながるのか、説明していこう。

まず少子高齢化はそのまま、労働年齢人口の減少を意味する。国が経済成長を掲げる中で、それを担う人材が減少しているのは致命傷といえる。少ない人数でも成長を維持できるよう、1人ひとりの人材ができるだけ早い段階から戦力として育つことを社会が求めることは非常に理にかなっている。

次に、企業間競争のグローバル化は企業の経営環境を厳しくし、人材への投資余力を奪っている。これにより企業が人材を長期に雇用すること、さらには就職したあとちゃんと一人前になるまでの育成の機会を提供することが難しくなった。

そして、こうした社会構造の変化により、できるだけ早く自立し、入社した会社の支援を受けることなく、自らキャリアを作り上げていける人材が求められることとなった。

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