「会計力」こそ会社人生に必要不可欠な能力だ 冨山和彦氏から学生・社会人への大胆直言

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自分でレストランに行くときも、ずっと眺めて、「店にとって、どれが儲かって、どれが儲からないか」と考えればいい。「やはりこれを勧めてきたか。これは儲かるよな」と思える。

芝居を観に行くときでもいい。たとえば、銀座のシアターに行って、席に座りながら考える。「今日の客の入りは大体8割くらいか」とか。1人1万円で、500席あって、400席埋まっていれば、400万円の収入だと計算できる。経費も想像する。場所は1回借りたら、1回の公演で、たぶん何十万円は取られる。オペラともなれば、役者は壇上だけで100人、さらにオーケストラは50人、豪華な舞台設備もあるのが普通だ。すると「全体の費用を考えると、観客収入でカバーできている比率は20%ぐらいか、そうすると協賛がないと持たないな」とわかる。結論としては「1人芝居のほうが儲かるだろうな」などと納得できる。

――楽しそうですね。

商売は、一種のゲームだ。事業活動とは、本質的に独立した営利法人で、利益を稼いでなんぼだ。

エコノミクスを考える癖をつけることは、義務的にやってもおもしろくない。商売が好き、商売への好奇心で、おもしろがることが大事だ。ここで、わけのわからない、武士道的なものを振り回してはいけない。”武士道モード”でやると、商売に対する好奇心や勉強が執念になり、やりたくないのにやるとなる。それでは身に付かない。

日本の経営者は会計リテラシーが足りない

冨山和彦(とやま かずひこ)/1960年生まれ。東京大学法学部卒業。スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。ボストン コンサルティング グループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、産業再生機構COO就任。機構解散後、経営共創基盤(IGPI)設立。多くの企業の経営改革や成長支援に携わる(撮影:梅谷秀司)

会計的リテラシーや財務的知識は、実は教養中の教養だ。人間が人間としてよりよく生きていくための、かなり根本的な技法の1つだ。

残念ながら、日本の経営者はこの部分の教養が足りない。まだ中小企業の社長は、1つのビジネスをやっているから、わかっている。銀行からカネを借りて、来月に給料を払えるかを心配し、バンバン仕入れたら、実は運転資金でカネがなくなるとか、売り上げが伸びているときのほうが資金繰りは危ないとか、経験しているので。

ところが、立派な会社にポンと入ったエリートのビジネスパーソンは、そうした実体験がない。だからいろいろあっても、夜、新橋でワーワー騒いでいれば済む。中小企業でワーワー言っていたら、その間に会社がつぶれてしまう。飲んでいる場合じゃない。

――日本のビジネスパーソンが会計的リテラシーを鍛えるには、どうすればよいのでしょうか。

すでにある歯車を担うという意味では、ものすごく鍛えられている。ただ、それはビジネスパーソンとしての歯車で、仮に副社長までいっても、経営をやっているわけではない。彼らと、ちゃんとビジネスをやっている中小企業経営者との間には、深くて暗い川がある。

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