正社員になれなかった56歳男性の厳しい貧困

夕食は毎日、卵かけご飯か納豆ご飯だけ

不安定雇用を強いられながら社会や会社に貢献したキイチさんは、必要がなくなると簡単に切り捨てられた。戦後最長と称される「いざなみ景気」もアベノミクスも、彼の暮らしにはなに1つ恩恵をもたらしてはいない。

不思議だったのは、社会や政治に対する不満について尋ねたとき、キイチさんが「日本がアメリカに加担して戦争ができる国になってしまったことです。もう1つは、自宅前の道路の車の騒音がひどいので早く対策をしてほしいことです」と答えたことだ。安倍晋三政権下で成立した安全保障関連法と、地域の道路整備についての話である。どこか借り物のような言葉に違和感を覚え、働かされ方に不満はないのですかと水を向けてみると、まるで覚えた「答え」を思い出すように「白髪頭の何とかという総理大臣が……」と話し始めた。小泉元首相による一連の規制緩和政策のことだ。

「好きでこういう状態になったわけじゃない」

こうした「答え」は、雇用促進住宅への入居手続きを手伝ってくれた地元議員や、その議員が所属する政党の人たちが話していたことだという。10月に行われた衆院選でも、頼まれてこの野党政党の候補のビラ配りなどを手伝った。ただ、政策に共鳴したからというよりも、「ホームレスをしていたときに、お世話になったので」という感謝の気持ちが大きいようだった。

もしかすると、キイチさんは卵かけご飯しか食べられない現実に困ってはいても、怒ってはいないのかもしれない。私の戸惑いを気遣うように、彼が言った。

「私だって好きでこういう状態になったわけじゃない。それは確かですよ」

口元を隠した、独特の空気の抜けたようなしゃべり方。その言葉はやはり、耳を澄まさなければ聞き取ることができなかった。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
関連記事
トピックボードAD
人気連載
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
0/400

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • いいね!
トレンドウォッチAD
途上国の石炭火力支援を<br>日本はやめるべき

アル・ゴア元米国副大統領は地球温暖化対策の重要性を訴え続けている。米国は温暖化対策の枠組み「パリ協定」からの脱退を表明。対策は後退してしまうか。日本がすべきことは何か。