自分の名前で食っていく「人類2.0」 藤原和博とスーパーIT灘高生が考える(下)

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藤原 Tehu君は、しきりに「相手を意識することが大事」と言うので、腕時計の例を話しますね。いまは単なるブランドじゃなくて、物語を欲している人がたくさんいるんです。 

腕時計の第1弾は、漆を文字盤に使った「japan」。大和魂で「japan」と名づけたわけではなくて、小文字の「japan」って「漆」という意味なの。それでそういうブランドにしたんです。 

この腕時計をつくった発端は、「時計企画室コンスタンテ」という、時計のOEM(発注元企業のブランドで販売される製品を製造する)メーカーの清水新六社長との出会い。彼は元セイコーの技術者で、セイコーから時計の駆動部分を買ってケースを金型からつくってデザインするんです。 

製造過程をネットで告知、限定50本が完売

オレは自分が欲しいと思う腕時計を探していたんだけど、普通3000とか3万ロットぐらい発注しないとつくってもらえないだろう思っていたの。聞いてみたら50個ぐらいからつくれるという。「だったらオレの友人知人だけで売れちゃいますよ」と。 

それでちょっとやってみようと思って、デザイン画を落書きみたいに描いて、それをセイコーのカリスマデザイナー、岡谷哲男さんに渡して細部までビシッとデザインしてもらった。 

腕時計が完成するまでの過程をネットで告知した

その製造過程をネットで告知していったら、まだ製品ができていないのに、数十万円の腕時計限定50本が1カ月で完売しちゃった。 

第2弾も完売して、第3弾は石巻市の雄勝石という、習字のすずりに使われる原石を文字盤に使ってつくったんです。30万円の価格で、110万円の寄付という形にして限定30個。それも完売した。寄付金300万円で、雄勝法印神楽という600年続いた無形文化財を復興するのに必要な和太鼓を5台買いました。 

第4弾も完売して、今年の第5弾は、有田焼がいま少し廃れているから、有田の白磁を世界で初めて文字盤に使って、「arita」という時計をつくりました。これを100個発売して90個ぐらい売れているんですよ。元伊勢丹のカリスマバイヤーの藤巻幸夫(幸大)さんがやっている藤巻百貨店でも買えます。 

強いコンセプトをプレゼンすれば潜在顧客が集まる

 何が言いたいかというと、自分に強いコンセプトがあれば、それをまずネットでプレゼンするだけで潜在的な顧客が集まってくるんです。そこから開発していって、それをネットで報告していくと、その物語を共有して共感した人が買ってくれるということ。 

オレのようにITがほとんどできない人でも、ITを味方にそういう若いスタッフと一緒にやると、ファブレス(工場なし)で腕時計の商品開発ができちゃう時代になっている。例の『メイカーズ』(NHK出版)に書いてあるようなことができてしまうんですよ。 

Tehu ボク、今日、この対談が終わったら、次は横浜で中高生に3Dプリンターを使ったファブリケーションを教えるイベントに顔を出すんです。 

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