ヤマトとEC業者、値上げで迎える蜜月の終焉 働き方改革で初の赤字転落、復活果たせるか

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足元で上場以来初の営業赤字を計上しながらも、翌々期にはV字回復を果たすというのは挑戦的な目標にも見える。

この計画を達成するための、最大のポイントはヤマトがシェアを維持できるかにある。2016年度の宅配便シェアは佐川急便が31%、日本郵便が16%に対し、ヤマトが47%と圧倒的だ。ヤマト同様、佐川急便や日本郵便も人件費増を受け、大口顧客向けの運賃引き上げを進めている。

ただ、ヤマトが総量規制を打ち出したことで、業界の勢力図に変化をもたらす可能性がある。日本郵便の宅配便「ゆうパック」は今年9月の取り扱い個数が前年同月比で17%も増加。ネット通販拡大による需要増に加えて、これまでヤマトを使っていた顧客の流入が押し上げたとみられる。

日本郵便がシェア拡大で猛攻勢

今年9月、中期経営計画を発表するヤマトHDの山内雅喜社長。働き方改革と輸送力強化を進め、2019年度に最高益を目指す考えを示した(撮影:田所千代美)

実際、ヤマトから日本郵便に契約を切り替える大口荷主が相次ぐ。ある通販大手はヤマトと運賃交渉を進めてきたが、5割を超える値上げを提示され、契約継続を断念。11月をメドに日本郵便に契約を切り替える方向で最終調整を進める。日本郵便に切り替えた場合でも、顧客に負担してもらう送料は500円程度に据え置くため、配送コストは1割程度アップするという。

西日本のあるネット通販会社では今年8月にヤマトとの契約を打ち切り、日本郵便に切り替えた。荷物量の抑制を求められ、宅配業者の2社活用を検討したが、物流コストが増えるため、1社に絞った。同社の社長は「佐川急便も人手不足で現場は逼迫している。余力のある日本郵便に頼むのは自然な流れだった」と話す。

宅配便でヤマトと佐川急便の後塵を拝してきた日本郵便は目下、シェア拡大に躍起になっている。日本郵政グループ傘下の日本郵便にとって、ゆうちょ銀行やかんぽ生命に比べ、十分な収益貢献ができていないことにはじくじたる思いがある。

郵便の取扱数量が年々減る中、ゆうパックに商機を見いだす。特に力を入れるのが、B to C(通販の個人向け配達)だ。日本郵便の横山邦男社長は、「B to Cでは現在3割のシェアを5割に引き上げたい」と話し、鼻息が荒い。

一方、業界2位の佐川急便は強みとする企業間物流に経営資源を振り向けたい考えだ。2013年度にそれまで配送を請け負っていたアマゾンとの契約を解除したのも、採算重視の考えからだ。

佐川急便を傘下に持つSGホールディングスの中島俊一取締役は「宅配便には輸送能力の制約があり、労働環境のさらなる悪化や配送遅延といった事態は避けたい。シェアを追うのではなく、無理のない形で需要増に対応する」と慎重な姿勢を見せる。

シェアで半数を握るヤマトの優位はすぐに揺らぐことはないものの、日本郵便の攻勢は攪乱要因になりうる。また、輸送力増強のカギを握る宅配ドライバーの確保をめぐっても、他社との取り合いになるのは必至だ。

人件費増を運賃に転嫁し続ければ、さらなる顧客離れが進みかねない。再び数量を取りに行った時に通販事業者が戻ってくるのだろうか?

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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