働き方改革?国が口出しするのは不自然だ 経営者が自らやれることはいくらでもある

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働き方改革の中では、有給休暇の消化が少ないことも問題になっていますが、これも経営者の問題です。私は、有給休暇の範囲であれば理由なしでも無条件で許可するように人事担当者に伝えていました。休暇といえば、「誕生日休暇」を有給休暇に1日付け加えて取ってもらうようにしました。社員は、「自分の誕生日に休めるという制度」です。しかも、1週間の間で取らなければ無効にするとしましたから、多くの社員は週休2日の金曜日とか月曜日に移し、3連休にして確実に休んでくれました。

誕生日休暇は、社員の間で「バースデー休暇」と呼ばれていましたが、おそらく二十数年ほど前ですから、わが国で初めての休暇ではなかったかと思います。評論家の日下公人先生が「すごいね、そりゃ僕は初めて聞いた。名前はエグチ休暇とするべきですよ、全国に広がるといいね」と褒めてくれたことを覚えています。最近、当時の人事で採用を担当していた元女子社員が、「誕生日休暇を始めてから、就職希望者が十数倍に増えたんです」と笑っていましたが、そういう誕生日休暇も、なにも国から言われなくても、経営者の一存でいくらでも決めることができるのです。

PHP研究所の社長時代、社員で物故する人が4~5人いました。それぞれお子さんが2人、3人といましたが、残されたお子さんたちに、返済無用の「渡し切りの奨学金」を出すことにしていました。金額は不確かですが、小学生に月3万円、中高生に月5万円、大学生に月10万円だったと思います。就学している間、最後まで支給し続けました。いわゆる「民間版教育無償化」です。遺族の方から大いに感謝され、昨年もその1人のお子さんから、「大学を出て、この度結婚することになりました。無事にこの日を迎えることができたのも奨学金のおかげです」と分厚い感謝の手紙が届きました。

また、病に倒れ、有給期間が過ぎて治療している社員にも、休職扱いではなく、給与賞与は全額支払うことにしました。むろん、当人、ご家族も喜んでくれましたが、社員全員が大いに共鳴、理解して協力してくれました。こういう制度は、社員全員の理解があってのこと。振り返ってみて、改めて当時の社員への感謝の思いを強くしています。

国や政府に決めてもらわなければできない?

実施してきたことを書き並べ、自画自賛しているわけではありません。要は、国や政府に決めてもらわなければできないというようなことではないということなのです。まして、法律で決めたら実施するという経営者がいるとすれば、その経営者の自立性、自主性のないこと、だらしなさは問題だと言いたいのです。

給料にしても、一国の総理大臣が経済団体に乗り込んで「労働者の賃金を上げるように」と言わなければ、上げない、上げられないというなら、経営者の恥と思わなければならないのではないか。そのふがいなさには、まったく言葉もありません。

松下幸之助さんは、1967(昭和42)年に「むこう5年で欧米並みの賃金に引き上げる」と宣言し、実際に実行しましたし、それ以前の1960(昭和35)年には「5年後から週休2日制を実施する」と宣言し、他社に先駆けて導入しています。これらも、なにも政府から言われたことでもありませんし、指導されたわけでもありません。

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