一流のリーダーが実行している8カ条の心得 実行できている経営者は意外と少ない

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6つ目は、「自分の言ったことは必ず実行する」ということ。とにかく、経営者は約束を守るということと同時に、自分が社員に向かって言ったこと、世間様に話したことは、必ず、実行実現しなければならないということです。遅刻はするな、交際費は使うな、俺の注意することを聞けなどと言いながら、自分は朝の出社時間に遅れる、交際費は使いまくる、部下の諫言(かんげん)、助言は聞かない。

実に「滑稽」と言わざるをえません。それでは、経営者の権威は失われ、社員は誰一人ついてこないということになります。松下幸之助さんは、迎えの車が遅れてきたために遅刻したことがありますが、自分で自分を罰し、減給数カ月を課しました。社員に遅刻するなという以上は、やはり、こうした心掛けがなければならないでしょう。

「感動を与える」ことが大事

7つ目は、「感動を与える」ことが大事だということです。人は誰でも「頭」に訴えられるより、すなわち理屈で、筋論で話されるより、「心」に訴えられる、感動するときのほうが、大きな働き、「利ではない利」で動くものです。いくら理論的でも、いくら理解できても、なにか心に響かない、何か胸震えるようなものが感じられない話、言葉ということであれば、決して、積極的に仕事に取り組むことも、自主的に創意工夫もしません。人間というものは、そういうものです。

この話は、中国・秦の時代の話。田光という人が、始皇帝の暗殺をしたいという燕の太子に、荊軻(けいか)という人を紹介します。しかし、太子が疑念を持ったということで、荊軻に申し訳ないと自刃する。その行為に感動した荊軻は単身、秦に赴き、始皇帝暗殺を企てる。結局は、失敗し殺されますが、それは最初から覚悟のうえ。この荊軻については賛否がありますが、故・安岡正篤先生は高く評価し、人間かくあるべしと漢詩をつくっているほど。それはともかく、人は感動すれば、自分の命を懸けるほどの行動をするということです。理屈で人が動くのは有限、感動で人が動くのは無限といっていいでしょう。

経営者は、つねに心で、感動で社員を動かす、語りかけることの重要性を心得ておく必要があると思います。

最後に8つ目は、「自分より優秀な社員に嫉妬しない」ということが大事です。ところが、嫉妬する経営者が案外多い。経営者はなにが大事かといえば、自分以上の人材を集めること、自分のレベル以上の社員を育成することです。そうでないと、会社は自分の程度にしか発展しません。当たり前のことです。

「経営者の優秀さのメルクマール」は、経営者より優秀な社員が何人いるか、擁しているかで決まるものです。ところが、自分より優秀な社員が出てくると、嫉妬する。嫉妬するだけでなく、遠ざける。閑職に追いやる。あるいは退職させるように仕向ける。そういう光景を見ているほかの社員は、ああ、経営者を超えたら危ないなと思う。思うから、自己啓発も努力もほどほどにしかしない。手を抜くことになる。多くの社長と交流してきましたが、こういう社員に嫉妬する社長が多いのは意外に思ったものです。ですから、それでスピンアウトした人が、起業して成功を収めたという例は枚挙にいとまがありません。

だいたい、優れた社員の手柄は、経営者の手柄になるものです。熊本城を造ったのは、実際には、石工(いしく)であり、大工であり、その指揮者であって、加藤清正ではありませんが、熊本城を造ったのは?と問えば、誰しもが加藤清正と言うでしょう。ホンダを創ったのは、本田宗一郎さんだと言いますが、実際には、藤沢武夫という副社長の力によるところが大きい。松下幸之助さんの成功も、高橋荒太郎さんという名補佐役がいなかったらありえなかった。しかし、藤沢武夫、高橋荒太郎といっても、大抵の人は誰?と思うでしょう。そういうものです。ですから、経営者は、なにも嫉妬することはないのです。自分より優れた部下を持っていることをどんどん自慢すべきと思います。

経営者は、以上の8つの項目を、とりわけ心得ておくことが大事だということです。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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