共働き夫婦が陥りやすい「保険見直し」のワナ 妻の収入増は要注意!?夫死亡で「年金ゼロ」も

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妻が働いていない場合、どうしても民間保険に頼らなければならない金額が大きくなります。「万が一の場合は、夫に代わって仕事をします」とおっしゃる方は多いのですが、実際夫が亡くなってすぐに働けるのかというと、難しいでしょう。

当時の住まいは賃貸でしたから、Aさんが万一死亡の際には家賃負担の心配もありました。B子さんの実家は現在の住まいから遠く、現実問題として、子どもを連れて戻ることは難しいと考えていました。子どもも小さく、教育資金の準備など不安材料も多いので、漠然と保険に頼る気持ちが強かったのかもしれません。

妻の年収が850万円以上の場合は注意が必要

では、これからについてはどうでしょうか? 「今」改めて四角形の高さを考えてみることにしました。

現在の家族の状況はどうでしょうか。夫Aさんは今も同じ会社で継続勤務中です。妻B子さんは転職をして仕事も順調。むしろ夫よりも高収入とのことです。共働きでの生活も安定し2年前にマンションを購入、共有名義で住宅ローンの返済中です。

今夫が亡くなったら国からの保険がどうなるか、もう一度試算してみましょう。遺族年金は、妻が働いていても受給することができます。現在妻の年収は800万円、会社での成績もよく、今後もさらに頑張りたいと意欲的です。

さて、ここで大きな問題があります。実は国の保険は妻が年収850万円(所得では655万円)を超えると、遺族年金(このケースだと、年間143万円)はまったく受給できなくなるという「しばり」があります。年収850万円もあれば、国からの保険はいりませんよね、という解釈です。これは夫死亡時の妻の年収状況で決定されるので、その後年収が増えたり減ったりしてもその決定が変わることは、原則ありません。

Aさん夫婦の場合、ローンの負担は折半です。団体信用生命保険もそれぞれで加入しているため、夫に万が一のことがあったときでも、妻にはローンの返済が残ります。

また子どもは中学受験を予定しているとのこと。教育資金としての大学進学用の貯蓄は始めていますが、これからかかる塾代や中学・高校6年間学費は夫婦の収入からやり繰りするつもりでいるので、夫が万一死亡となると、子どもの教育は予定どおりにいかなくなります。

このように、国の保険の給付を受けるには条件があります。もちろん国の給付を受けることを優先するために収入を調整するなどナンセンスですから、妻の年収上昇に伴って遺族年金が受給できなくなることも考えたうえで、不足する分は民間保険でカバーするほうが合理的です。Aさん夫婦の場合、結局は、B子さんの仕事ぶりも勘案、最終的にはAさんの死亡保険は、減額どころか増額含みで再検討することになりました。

「保険に関する知識を持って、賢く保険に加入したい」という意識が高まることはすばらしいことですが、これらの社会保険の「はざま」を理解せずに万が一の備えを考えてしまうと、大変なことになってしまいます。特に契約後に家計の状況が変わった場合、契約者本人から申し出がないかぎり、契約した保険が不十分になっていてもそのままになってしまいます。

筆者は一般社団法人公的保険アドバイザー協会の理事として、公的保険の知識の普及に努めています。保険の販売サイドの方々にもしっかり国の保険を理解したうえで、顧客に「万が一の際に役立つ保険」を提案していただきたいと思っています。また顧客(契約者)側にも、国の保険給付の内容は、職業や年収によっても変化するということを知ったうえで、自身や家族の万が一」を守っていただきたいと思っています。

山中 伸枝 ファイナンシャルプランナー、FP相談ねっと代表

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やまなか のぶえ / Nobue Yamanaka

FP相談ねっと代表。一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。アメリカ・オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。「楽しい・分かりやすい・やる気になる」ビジネスパーソンのためのライフプラン相談、講演を数多く手掛ける。大手新聞社主催のiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAセミナーの講師など登壇も多数。金融庁のサイトで、有識者コラムを連載。著書に『「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書』(インプレス)、『ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本』(翔泳社)、『100人以下の会社のためのiDeCo&企業型DC楽々活用法』(日本法令)ほか。公式サイト

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