三菱ふそう、EVトラックで市場奪取の本気度 EVシフトの大潮流は商用車をどう変えるのか

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またランニングコスト面でもメリットはあるという。三菱ふそうのリストセーヤ社長は「従来のディーゼル車と比較して、走行距離1万キロメートル当たり最大1000ユーロ(約13万円)のコスト削減が可能だ」と語る。

トラック向け充電設備整備が普及のカギ

ただ、EVトラックの普及には課題もある。まず充電設備などインフラ面が整っていないことだ。現在国内には急速充電設備が約7000カ所あるが、主に乗用車の使用を想定したもので、トラック用の十分なスペースがない。三菱ふそうは今年5月に同社の川崎工場に日本初のトラック用充電設備を設置したが、あくまでも限定的な利用を想定する。「トラック用充電設備の設置は日本だけでなく、世界的な課題だ」(リストセーヤ社長)という。

ヤマト運輸も三菱ふそうのEVトラック「eキャンター」を宅配便の集配用に導入する。EVトラックで長距離の輸送をする場合には、航続距離の拡大が課題となる(記者撮影)

EVトラックの航続距離の問題もある。三菱ふそうといすゞ自動車が開発したトラックの航続距離は100キロメートル前後。近隣の配送や集荷に使用する際はこれで対応できるが、長距離を運転するトラックにとって航続距離がさらに必要なケースは当然出てくる。バッテリーを多く積めばその分、総重量が重くなり、十分な積み荷ができなくなる可能性がある。今後の技術革新で、より性能の高いバッテリーの開発が期待される。

さらに、EVトラックの大きな特長ともいえる「静音性」は、実は両刃の剣だ。音が静かということは配送の際の近隣住民や、運転の快適さという面では「優しい」といえるが、歩行者にとっては「優しい」とは限らない。音がしないことで、トラックの接近に気がつかないリスクがあるからだ。

この問題については、国土交通省がハイブリッド車とEVの新型車に対して、2018年3月から、歩行者の接近を音で知らせる「車両接近装置(AVAS)」の設置を義務付けることを発表している。この保安基準を順守することは当然だが、トラックメーカーには独自に安全運転支援装置などを設置することが求められる。

日本では歩行者や自転車乗車中の事故が交通死亡事故の半数を占め、米国や英国などに比べてその割合が高い。高齢化が進む日本では、65歳以上の高齢者が歩行中や自転車乗車中に死亡事故に遭う比率が高いことが、その理由として挙げられる。

人や自転車を巻き込む事故のリスクはトラックに限らず、乗用車のEV化の流れでも避けては通れない。EV化においては、とかく環境面やコスト削減などメリットにばかり目が行きがちだが、事故防止などリスク対策にも冷静に目を向けて、正しい方向に進む必要がある。

高見 和也 東洋経済 記者

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たかみ かずや / Kazuya Takami

大阪府出身。週刊東洋経済編集部を経て現職。2019~20年「週刊東洋経済別冊 生保・損保特集号」編集長。

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