習近平「一強」の独走体制ににじむ中国の焦り 7人の新最高指導部が選別された舞台裏

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同時に習氏は「中国の夢」を語る。国際社会における中国の声望を押し上げることにも腐心した。日本との戦争の開始時期を早め、共産党が早くから日中戦争を戦ってきた形にするなど、大国・中国にふさわしい歴史に書き換えた。また第二次世界大戦中、中国は欧州戦線でも一定の役割を果たしたことを強調し始めたのである。これらはすべて「中国は元から大国であった」と印象づけるためだ。

毛沢東に次ぐ偉大な指導者であり、改革開放を始めた功労者である鄧小平は、かつて、「才能を隠して、内に力を蓄える」ことを強調した、それから約30年後の今日、習氏はそのような深慮遠謀は捨て去り、大国化路線に転じたのである。それには中華思想的体質を帯びている国民の心をくすぐる狙いもあったのだろう。

中国における政府や官僚機構がすべてダメなわけではない。また小組からの指示がつねに正しい保証もない。党の権威を背景に、2本のムチが振るわれれば従うほかないが、官僚機構にとって習氏の非官僚的方法による改革は、しょせん人為的に作り上げられたものにすぎないのだ。改革は今後も積極的に進められるだろうが、行き過ぎると反発を惹起(じゃっき)する危険がある。

今大会で実現した新しい人事についても問題は山積みだ。中国共産党の中核的機関である中央委員会に204人が選ばれたが、国務院各部のトップクラスが相次いで中央委員の資格を失った。一部は定年退職の結果だが、大臣クラスの高官が中央委員でないのは、これまでめったになかったこと。国務院の新人事は、2018年の全国人民代表大会(日本の国会に相当)まで待たなければならないが、新大臣が中央委員から選ばれるか、不明の状態になっているという。中国人民銀行(中国の中央銀行)の周小川総裁も中央委員でなくなった。既存の官僚機構である国務院の各部は、党の序列では格下げとなり、党の指導力がそれだけ強くなってきたわけだ。

反面、公安系統は別扱いで、部長(大臣)、および3人の副部長は全員、中央委員になった。常万全国防部長も中央委員でなくなったが、後任は中央委員から選ばれるといわれている。公安や軍を格下げできないのは、国内の安定のため、強権的手段を維持せざるをえないからである。

若手ホープ2人はなぜ選ばれなかったか?

大会直後に決定されたトップ指導層の人事も特徴的だ。

今回の党大会で習氏と李克強首相以外の政治局常務委員は全員定年退職した。その後任に選ばれたのは、栗戦書氏(党中央弁公庁主任。日本の官房長官のような地位)、汪洋氏(経済担当の副首相)、王滬寧氏(党中央のシンクタンク)、趙楽際氏(党中央組織部長。王岐山の後継として反腐敗運動を担当)、および韓正氏(上海市書記)である。

しかし、習氏の後継者となる可能性があると見られていた、陳敏爾重慶市書記と胡春華広東省書記は、いずれも政治局常務委員に選ばれなかった。

陳氏は習氏の部下だったことがあり、信任が厚い人物である。習氏は後継者にしたかったといわれていたが、結局、それは実現しなかった。一方、胡氏はかねて次世代のホープとされてきたが、出身母体である共産主義青年団(共青団)に対し、習氏は最近批判的な姿勢を強めていた。そのことが原因となってか、後継者とならなかった。

このような結果になったのは、陳氏を推す習氏と、胡氏を推す李氏など共青団派の間で、激しい確執があったからだともささやかれている。

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