日本の学校教育が国際的に全然悪くない理由 「ゆとり」の目指したことは成し遂げられた

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2003年に実施したPISAの結果が2004年に発表され、日本の読解力の得点が下がったとわかったときは、大騒ぎになった。ゆとり教育が槍玉に挙げられ、この時期の子どもたちは「ゆとり世代」というレッテルを貼られた。批判に応えて、日本政府は次第に数学や国語の時間を増やすようになり、2011年、ゆとり教育のほとんどは廃止された。教科書は厚くなり、「総合的な学習」に使われた時間の多くはほかの科目に取って代わられ、縮小された。

だが、ゆとり教育は本当に非難されるべきなのだろうか? 日本の教育システムはいつもPISAのテストで高い成績をおさめてきたが、おそらくそれは教育が重視されているおかげであり、入念に計画された授業のおかげであり、すべての子どもが定められたカリキュラムを習得できるし、習得しなければならないという信念が根付いているおかげだろう。

ゆとり教育が目指そうとしたこと

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ところが、ほんのささいなつまずきで、政府はうろたえて、人々が嘆いている「受験地獄」の軽減と、見たことのない問題の解決において日本の生徒たちが世界一になる可能性の、両方に効果的だと思われた改革を廃止してしまった。

実は、2003年の結果は、ほかと比べてみてもそう大きな下落ではなかった。より根本的な問題は、そもそもこの改革が何をしようとしたものなのかが忘れられてしまった、ということだ。ゆとり教育は、PISAの得点を上げるためのものではなかった。子どもたちにかかるプレッシャーを軽減し、彼らの創造性や問題解決能力を伸ばすためのものだった。

2000年と2012年に子どもたちを対象に行った調査によると、学校に対する満足度はこの期間に、世界のどの国より増加している。そして問題解決のテストでは、日本の生徒は、PISAのトップだった上海をはじめ、ほかのほとんどの国よりまさっていた。私には、ゆとり教育が目指そうとしたことは、ちゃんと成し遂げられたように見える。

ルーシー・クレハン 教育研究者

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Lucy Crehan

オックスフォード大学で心理学と哲学を学ぶ。自閉症児の教育に1年間携わったのち、ロンドン・サウスウェストの中等学校で3年間教鞭を執る。ケンブリッジ大学で教育学の修士号を取得。その後、2年間にわたって世界を旅してまわり、各国の教育を実地調査した。現在はイギリスのNPO団体「エデュケーション・ディベロップメント・トラスト」に所属し、各国政府が実施する教育改革への提言を行う。

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