日本の学校教育が国際的に全然悪くない理由 「ゆとり」の目指したことは成し遂げられた

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このことに関して、私がインタビューを行ったALT(外国語指導助手)が詳しく説明してくれた。「アメリカ的な考え方を持っていたぼくが驚いたのは、よくできた子どもを褒めたときの、ほかの先生たちの反応だよ。たくさんの先生に、『いや、やめたほうがいい。そんなことをすると、ほかの子どもたちが荒れますよ。おべっか使いめ、たいしたことしてないくせにって』というふうに忠告されたんだ。だから、だんだんしなくなったよ」。子どもたちを差別しないように苦心している教師たちには、子どもはすべて同じくらいの潜在能力を持っているという確信がある。

中学校までは基本的に能力別のクラス分けをしないことも、こうした平等観念に基づいている。日本では1つのクラスに、最高峰の大学に入ることを目指している生徒も、数学が苦手で苦労している生徒も、野球の練習が忙しくて宿題にまで手が回らない生徒もいる。私自身はイギリスで、生徒を能力別に違うクラスに分けるというやり方を経験しているので、訪問した中学校の校長先生に、能力別クラス編成をしない理由を尋ねた。

彼はこう答えた。「日本には、万人に等しい教育を受けさせるという非常に強い信念があります。そういう伝統なのです」。OECD(経済協力開発機構)が実施する国際学力テスト「PISA」(生徒の学習到達度調査)の参加国の中で、数学の得点における親の社会経済的地位の影響が国際平均より低く、しかも得点は国際平均より高いという国はわずか10カ国しかなかった。日本がその中に入っているのには、こうした信念が関係しているはずだ。

失敗に動機づけられる子どもたち

努力によって物事は達成されると考える日本の子どもたちは、失敗したときにも、その失敗に刺激されてさらに頑張る。西欧の普通の子どもたちとは正反対だ。

この特異な現象について調べるために、日本とカナダの生徒たちに、RATという創造力に関するテストを行った有名な研究がある。その内容は、与えられた3つの言葉と結び付く言葉を1つ思い浮かべなければならない(たとえば「日(ひ)」「空想」「眠り」に対して「夢」という言葉を思い浮かべる)というものだった。

ポイントは、簡単な問題を出された生徒と難しい問題を出された生徒に分かれていて、テストの後で生徒たちは自分の答えを採点するように言われるが、そのときほかの生徒の得点も見られるという点だ。当然、難しいテストを受けた生徒は、自分はとても成績が悪いと思い込むし、簡単なテストを受けた生徒は、自分はかなり良くできたと信じる。

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