リーダーに求められる究極の資質は「度胸」だ 経営が行き詰まったときにどうするべきか

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経営危機は、知恵を出す機会、新たな道を見つける絶好のチャンスとは、なかなか思えないかもしれませんし、経験的に私自身もなかなか思えませんでした。しかし、やはり、そこはあくまでも前向きに、絶対にこの苦境を抜ける道はあると考えることが大事だと思います。

1度白紙にして考えることの重要性

さらに、「白紙で考えること」も大事です。いま取り組んでいる事業、仕事にとらわれず、わが社を生き残らせ、発展させるためにはどうすべきかを1度頭の中を更地(さらち)にして考えてみる。富士フイルムのことは以前も書きましたが、フィルムやカメラにとらわれず、しかも自社の持てるもののなかで活用できるものはなにか、白紙で考えた結果、フィルムの製造過程で使うコラーゲンに思い至る。そして、化粧品を考え出す。全体の売り上げの25%を占めるまでの商品に仕上げています。

この会社が、フィルムやカメラに拘泥していたなら、今日おそらく生き残っていなかったでしょう。経営が行き詰まったときに、小手先の改善改良では、結局は墓穴を掘ることになります。自分の得意技を、今までの方向ではなく、まったく別の方向に向けて考えてみることです。

ブラザー工業は、いつも白紙に戻って、会社の方向を何度も決めている会社だと思います。ブラザー工業といえば、昔はミシンをつくっていました。そのミシンが行き詰まると、主力商品をプリンタに転換。さらに工作機械など、その都度、「今の製品を思考範囲からはずして、新しい方向を考え出す」。そのような白紙思考をして大きな発展を遂げています。

技術的なつながりがあるとしても、製品としては極めて大きな飛躍です。経営を行き詰まったときにはこのように、「1度白紙にして、新たな事業を考えるということ」も必要かと思います。

加えて、そのためには、「情報を集めること」も必要です。いま、自分の会社で可能な事業はないか。それを自分1人で、ああではないか、こうではないかと悩み考えるのではなく「足で考えること」、すなわち「衆知を集めること」が大切なのです。

いろいろな情報を知るために労を惜しまず、いろいろな人、さまざまな場所に出向く。申し上げておきますが、そのとき訪ねて聞いて、批判する、是非を論ずるのは愚かです。そういう考え方もできるのか、そういうことを多くの人は考えているのか、将来はこうなるというように考えているのか、などと、すべてを頭の中の「情報ボックスの引き出し」の中に収めていく。そうした情報の集め方、衆知を集めていると、しだいに自分が取り組むべき方向が浮かび上がってくる。自社の事業展開の分野が、あぶり出しのように浮き上がってくると思います。

経営者は評論家ではありません。論争して、是非を論ずるのは書生に任せておけばいい。経営者は、議論する、評論するより、情報を集めて、自分の会社、自分の経営を発展させることが大事なのです。議論に勝って、会社が潰れる例はいくらでもあります。

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