最新囲碁AI「Alphago Zero」に畏れは無用だ 人が問題を解く方法とは根本的に違う

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人間を超えた発明の力を、AIは獲得しようとしているのではないか?との畏れや、AIによって創造的な職業までがその将来を脅かされるといった考えを持つ人たちが現れるのも不思議ではない。状況証拠はそろっている。

言うまでもなくコンピュータの計算能力は半導体技術とクラウド技術の進化により急速に巨大化しており、凄まじい速度で自己対局と自己学習を繰り返せるようになった。基礎となる情報――すなわち自己学習し、より優れた打ち筋を探さなくとも、すべての定石を自分自身で発見できるほどの洗練された解法をプログラムし、そのプログラムを凄まじい速度で実行できる計算能力を示した点が、今回のニュースのポイントだ。

しかし、コンピュータ自身が囲碁を客観的に理解し、どのように打っていくべきかインスピレーションを得ながら打っているわけではない。

囲碁の打ち方、対局が進むにつれて変化する戦局を評価・数値化する方法などを考え、プログラムするのは、あくまでも人間だ。自己学習による強化は、人間が考えてプログラムした手順が、より最適に動作するよう……この場合は最善手は何であるかを試行錯誤の上に調整していく仕組みにすぎない。

新たな定石を発見したのは、人とは異なり何らかの“観念”にとらわれないため、従来の常識からは考えられないような打ち筋も試すAI棋士ならではの現象とも言える。つまり“考えていない”からこそ見つかったということだ。同様の現象は、将棋における人間対AIの対局にも見られることがある。

コンピュータが解決方法を作り出すわけではない

昨年、プロジェクトの終了がニュースとなった「ロボットは東大に入れるか(通称:東ロボくん)」をご存じだろうか。国立情報学研究所の新井紀子博士が中心に民間企業や大学の研究者も参加したこのプロジェクトは、センター試験をAIに受けさせ、東大受験で合格A判定を目指したもの。このうち世界史Bを担当した日本ユニシス(偏差値66.5を記録)に取材したことがある。

多くの人が「コンピュータは問題の答を、どのように考えて正しい答を導いているのか」と想像するだろうが、実際にはセンター試験で出される問題をタイプごとに分類。問題のタイプごとに異なる解法をプログラマーが考え、プログラムとして実装したうえで教科書の情報とWikipediaの情報を突き合わせて学習させていた。

しかも複数種類のプログラム……つまり、複数の解き方を考えて実装し、合議制で正しい答を見つけ出すという方法。問題の意図などを理解しているわけではなく、あくまで確率的に正しいと思われる答を選択するにすぎない。

細かな解法に関しては省略するが、問題ごとに解決方法を考えるのはプログラマー(人間)であり、その解決方法をコンピュータが作り出すわけではない。人が問題を解くことと、AIが問題の正しい答を見つけ出すことは、根本的な部分に違いがある。

AlphaGo Zeroに話を戻そう。

AlphaGo Zeroが証明したのは、AIが正しい答を素早く見つけ出すための道具として、次のステージに進んだということではないだろうか。人間が発見してきた定石などの基礎情報を与えなくとも、より確かな答(よりよい打ち筋)を求めて計算し、見つけ出す力は想像を超えるレベルにまで達してきた。

人間が問題解決の糸口となる“考え方”“解法”をプログラム。その元になっている仮説や考え方が正しい方向を向いていれば、DeepMindの開発チームが言うように「人間の知識に制約されなくなった」分だけ、より自由な発想、想像もしていなかった方向性への発展性が望める。

問題解決のツールとして、これは大きな一歩と言える。そこに“畏れを抱く”要素はない。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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