ホンダの新型スーパーカブは何が進化したか 世界販売1億台の名車も環境規制対応に苦慮

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ホンダの50ccバイク「モンキー」。排ガス規制への強化を受け、今年8月で生産を終了した(写真:ホンダ)

ホンダでは今年8月、人気車種の「リトルカブ」や「モンキー」が惜しまれつつ生産を終了した。厳しくなった排ガス規制に対応しようとすると、排ガス浄化装置を新たにつける必要があり、価格を維持できなくなるからだ。環境規制により、趣味性の高い50ccバイクがラインナップから姿を消すという寂しい状況となっている。

そもそも国内の2輪市場はジリ貧の状態だ。237万台を売った1980年から市場は7分の1に縮小。2011年から2014年にかけては中高年が再び2輪に乗りだす「リターンライダー」需要で少しだけ盛り返したが、2016年の販売は約34万台と前年比1割減に沈んだ。

昨年、ホンダはヤマハ発動機と、2輪の生産や開発での業務提携を発表した。かつて「HY戦争」と揶揄された宿敵との提携は業界に衝撃を与えた。ホンダは今後、ヤマハの50ccバイクの生産も請け負うことになる。規制対応では、50cc以外のバイクについても手を組むと表明し、次世代電動バイクの共同開発も進めているという。

電動バイクは現状ではほとんど普及していない。ホンダは、「アジアを中心にインフラ整備やバッテリーのリサイクルなど、法規上の問題を政府と詰めているほか、国内では、過疎化でガソリンスタンドのない地域での需要を想定して形にしていく」(安部典明・二輪事業本部長)考えだ。2015年に発表して以来音沙汰のないEV(電動)カブは、「やや優先順位は下」(同)で、日本郵政との提携など商用利用を先に展開していくという。フィリピンでの実証実験を今年9月から行っており前向きな姿勢を見せるが、実用化には時間がかかりそうだ。

原点としての2輪に寄せる期待

ホンダの2輪事業は営業利益率が約10%と、約5%の4輪と比べ高い収益性を誇る。リーマンショック時に赤字転落を回避できたのも、2輪事業の黒字があったからだ。八郷社長は「ホンダにとって2輪は原点であり、これからも収益を牽引していくと期待してほしい」と、やや自嘲気味に語る。しかし、4輪同様に環境規制の厳格化や電動化の波が押し寄せる中、2輪で世界トップシェアを誇るホンダといえども、安穏としてはいられない。

記念式典には若者に人気の音楽グループ・ゴールデンボンバーも登場。八郷社長は「(クルマもバイクも)乗ってみないとわからない」と話し、若者向けの広告やイベントを積極的に打ち出す姿勢を示した(記者撮影)

ホンダは今月、2021年度をメドに埼玉県の4輪生産拠点を寄居工場に集約し、電動化に対応した生産技術を開発する拠点として強化すると発表したばかりだ。八郷社長は会見で「日本の製造現場が世界をリードしていくことが不可欠」と表現し、ホンダの技術の原点が日本にあることを強調した。海外で成長してきたスーパーカブが、4輪より一足先に「原点回帰」へと舵を切ったのは、ホンダの危機感の表れかもしれない。

森川 郁子 東洋経済 記者

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もりかわ いくこ / Ikuko Morikawa

自動車・部品メーカー担当。慶応義塾大学法学部在学中、メキシコ国立自治大学に留学。2017年、東洋経済新報社入社。趣味はドライブと都内の芝生探し、休日は鈍行列車の旅に出ている。

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