資源価格が反落、浮かぶ石油・鉄鋼の構造問題


 9月上旬、東京都世田谷区の環状八号線沿い。安売りで知られるガソリンスタンドは、レギュラーガソリンで1リットル当たり163円の値段を店頭に掲げていた。

急騰を続けていた原油相場が反落したことで、ガソリン価格の値下がり傾向も強まっている。石油情報センターによると、ガソリンの全国平均の小売価格は、8月4日時点の185・1円をピークに下落しており、同月25日時点では181・7円。そして、元売り各社は9月からガソリンなど石油製品の卸値引き下げに踏み切った。

最大手である新日本石油の場合、9月の引き下げ幅は5・1円。原油調達コストは前月比で10・1円下落したが、8月分に転嫁できなかった分を反映させて下げ幅を決めた。卸値は、前月26日から当月25日までの期間を対象に算出した原油の調達コストにマージンを上乗せして翌月分をはじき出している。だが、8月の卸値をめぐり、原油相場が7月中旬から軟化したことで、「油価が値下がりしているのに、どうして卸値を上げるんだというクレームが多かった」(中村雅仁常務執行役員)。

業界では急激な原油の価格上昇を受けて、川下のスタンドなどへの転嫁が追いつかず、製品マージンの大幅な縮小に直面している。新日石の石油製品部門でも、2007年度の経常損益は在庫評価の影響を除いた実質ベースで366億円の赤字を余儀なくされた。08年度の第1四半期(4~6月)も、同部門は44億円の経常損失を計上した。

厳しい状況に追い込まれる中、価格転嫁をスムーズに進めようと、元売り各社は石油製品の需要家に対する値決め方法の見直しに着手。それが、従来の「コスト連動」型から「市場連動」型への移行だ。

価格高騰の一服でも過剰問題は深刻

市場連動方式では、東京工業品取引所(TOCOM)の先物価格や調査会社が公表するスポット価格、いわゆる業転(業者間転売)物の値段を基準に、運賃など経費を加味して卸値を決める。新日石や出光興産では10月から新方式の導入を予定し、ジャパンエナジーも採用を検討。改定時期も新日石は従来の月1回、出光は月2回からいずれも毎週へと変更する。方式変更で機動性が高まるメリットはあるが、石油製品の需給も卸価格に反映される点で、従来と大きく異なる。つまり、原油相場の上昇を受けても、需給動向で卸値が下落するケースも考えられる。

だが、そうなれば、「国内石油業界の構造的な問題点が浮かび上がるはず」と新日石の中村常務は話す。その問題点とは、スタンドの多さと供給過剰体質の二つだ。全国のスタンド数は06年度末で4万5000カ所余り。閉鎖数も毎年1000を超すが、それでも全体の約半数が営業赤字とされる。また、国内の製油所の原油処理能力は、1日当たりの需要(約400万バレル)を約80万バレル程度上回る状態。原油急騰の一服でひとまず救われたが、「市場連動方式の導入が新たな業界再編を促すきっかけになる」との見方もある。低迷が続く国内石油精製・販売事業への危機感は依然として強い。

さらに「オイル・トリガード・リセッション(原油高が引き金となった景気後退)を背景とする欧米・アジア地域の石油需要減の影響が原油相場に出てきた」(出光興産の須田善一取締役)。市況産業には世界規模の需要減退というリスクもある。

相場急落で思わぬ展開,逆風のステンレス業界

原油相場以上に異変を来し、業界に影響を及ぼしているのが、ステンレス原料に使うニッケル市況だ。

「減収減益はすべてステンレスによるものと考えてもらっていい」。国内ステンレス2位、日新製鋼の津田与員(よしかず)常務は苦渋の表情を浮かべる。同社の08年第1四半期(4~6月)の営業利益は前年同期比で約7割減少した。国際指標であるロンドン金属取引所(LME)でのニッケル価格は、中国でのステンレス需要拡大や投機資金の流入で上昇一辺倒。07年5月には史上最高値をつけた。だが、翌6月にLMEが投機筋の規制に乗り出し、相場は大きく崩れる。折しもこの時期は、米国でサブプライム問題が顕在化しだし、住宅需要に影が差し始めた頃。国内では建築基準法改正の影響で着工数が落ち込み、建材向けステンレスの荷動きが鈍りだしていた。

ステンレスの販売価格はニッケル相場に連動して決められている。そのため相場価格でなおジリ安が続くことで、販売価格にもつねに先安感が付きまとう。業界関係者は「ニッケル安は買い控えを招き実需面で影響が出ている」と嘆く。国内メーカー各社は、昨年夏から従来の能力比で3割前後の減産を続け、市中在庫は適正水準に近づきつつある。荷動きは依然として鈍いまま。あるメーカーの幹部は、「いつも『半年先には需要が戻る』と言いながら、すでに何カ月も経過した。どこまでこうした状態が続くのか」と不安を口にする。投機資金の流入で川上の資源価格高騰に翻弄されてきた川中業界は、実需動向によってはさらなる困難に直面する可能性もある。
(松崎泰弘、猪澤顕明 撮影:今井康一 =週刊東洋経済)

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