イラン内部で権力闘争が再燃し始めている 米トランプ大統領の核合意「否認」受け

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トランプ大統領は13日、国際機関の査察官がイランが核合意の合意事項を順守していると確認したにもかかわわらず、合意の順守を認めることを拒否。米国の同盟国と敵対国の両方を公然と無視してみせた。

米大統領は核合意の枠組みから完全な撤退は表明しなかったものの、米国議会に対し、対イラン経済制裁を再発動するか60日以内に決定するよう要請した。

千載一遇のチャンス

「米国との関係緊迫化は、イランの強硬派にとって、ロウハニ大統領の翼を折る千載一遇の好機だ」と、18カ月の期間を要した核交渉に参加したロウハニ氏の支持者は語った。

イランの強硬派の最高指導者ハメネイ師は、ロウハニ大統領が主導した核交渉を慎重ながらも支持していた。だが同時に、米国が合意を順守する可能性については、たびたび悲観的な見方を示してきた。

ロウハニ大統領にとって、大きな賭けだった。世界との距離を縮めたことで、国内では人気を、国外では名声を得た。一方、西側との緊張緩和や国内自由化に反対するハメネイ師ら強硬派にとっては後退を強いられた。

だが情勢は逆転しつつある。

「強硬派は、トランプ大統領の脅しを、ロウハニ大統領の頭の上に吊るされたダモクレスの剣として使うだろう。核合意で得た経済的利益は享受しつつ、だ」。テヘランを拠点とする政治アナリストSaeed Leylaz氏はそう語った。経済的な利益とは、石油部門や銀行部門に対する制裁解除を指す。

「ロウハニ氏と彼のデタント(緊張緩和外交)政策は、核合意が存続しなければ、弱まるだろう」と、別のイラン政府高官は語った。「もちろん、攻撃的な地域政策が取られることは避けられない」

聖職者と共和制による二元的なイラン独自の政治システム下では、選挙で選ばれた大統領が、選挙を経ていないハメネイ師の下に位置する。ハメネイ師は過去に、イスラム共和国の存在が脅かされるような内部対立が起きた際には、自ら統制強化に乗り出している。

トランプ大統領のイラン政策は、いずれ強硬派を利する結果になると、ハメネイ師の支持者は言う。「重要なのは、イスラム共和国とその利益だ」

トランプ大統領の発言を受けて、ロウハニ大統領は、もし核合意がイラン政府の利益を守れないなら、撤退もありうると示唆している。

合意存続は今や米国議会次第だ。同議会は、合意内容の修正や、イランに対して再び制裁を課そうとする可能性がある。だが仮に議会が再制裁の検討を拒否したとしても、もし両国政府が報復合戦に出れば、合意存続はやはり危うくなる。

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