18歳・地下アイドルがハマった「うつ」の隘路 悩み、苦しみ抜いた彼女が自ら明かす真実

拡大
縮小

最後の日に開催したのは、ワンマンライブでした。動員は181人。業界全体で見ればちっぽけなことですが、18歳だった私の身の丈には合わないような、ライブハウスに入りきらないほどの人が足を運んでくれました。

しかし私は、この日に関する記憶がもうほとんどありません。よく覚えているのは、2時間ほど歌った後に、舞台の上で長かった髪をはさみで切ったことです。

翌日私は、自分で切ってしまった髪を美容師さんに切りそろえてもらった後(「これ、どうしたんですか?」「どこの美容室で切ったんですか?」「なんか事故ですか?」等々言われながら)、東京を離れて縁もゆかりもない土地へと向かいました。

日がな一日、本を読んで、好きなだけ眠り、好きなときに好きなものを食べて過ごしていたら、自然と感覚が戻ってきました。本が面白い。安心してぐっすり眠れる。食べ物がおいしい。透明な海がきれいでした。ヒトデがたくさんいて、気持ちのいい風が吹き抜けていて――。

お互いを認め合うことで成り立っている世界

私は中学時代に失った自分の居場所を高校時代に取り戻して、地下アイドルの世界にも新しい居場所を見つけた気がしていました。

私は、中学時代に自分の居場所を失った反動から、知らず知らずのうちに、地下アイドルの世界に居場所をつくれるのか知ろうとしていました。実際に地下アイドルの世界は、人から認められたい人たちが、お互いを認め合うことによって成り立っている世界でもあります。

私も初めて舞台に立ったその日に、十分に他者から承認されました。私の自覚していなかった承認欲求は、地下アイドル業界に身を置いたことで、無自覚なうちに満たされていたのです。

『職業としての地下アイドル』(朝日新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

しかしそれは、「 ゚*☆姫乃☆*゚」というキャラクターが得た承認にすぎないと思っていました。そう考えていたせいで、歓声が忘れられないとか、地下アイドルになって生まれ変わったとか、そういうふうには思えなかったのです。

もちろん、地下アイドルとして認められるのはすばらしいことです。しかし、これは仮の承認にすぎないのだという思いがいつまでもぬぐいきれず、私自身が最も自分を認めることをできずにいました。その証拠に、舞台で歓声を浴びれば浴びるほど、ほかの女の子が褒めそやされているようで憤りを感じていたのです。

私はとっくに地下アイドルの世界でファンや関係者から認められていたのに、自分で自分のことを認められなかったせいで、どれだけ働いても、頑張っている実感がありませんでした。そのせいで自分が壊れるまで際限なく働き続けてしまったのです。

一度はそうやって地下アイドルの世界から身を引いた私ですが、今こうして文章を書いているように、この世界に戻ってきました。今日に至るまでの話は、また後ほど。

姫乃 たま 地下アイドル、ライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ひめの たま / Tama Himeno

1993年2月12日、東京都生まれ。16歳よりフリーランスで始めた地下アイドル活動を経由して、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業を営んでいる。音楽ユニット・僕とジョルジュでは、作詞と歌唱を手掛けており、主な音楽作品に『First Order』『僕とジョルジュ』等々、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新書)、『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー)がある。

ウェブサイト ■ http://himenotama.com
Twitter ● https://twitter.com/Himeeeno

 

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT