技術だけじゃない 米国で学ぶもの

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プロゴルファー/小林浩美

 残暑が厳しい9月、台風もコロコロ発生しやすい。試合中に雷や激しい雨に見舞われると試合が一時中断したり、短縮競技になったりする。

米ツアーでは、雷雨による一時中断というのが年に少なくとも十数回はある。その中断時間や再開の時間も半端でなく、太陽の明かりがあるうちは有効に使うというやり方だ。

たとえば、米ツアーに初参戦した1990年の全米女子オープン。予選2日目が雷雨で4回サスペンデッドになった。朝8時スタートだった私は、中断、再開、中断、再開と1日で4回繰り返し、18ホール終了したのが午後8時。3日目はまだラウンド数を消化していない選手たちがプレーし、結局最終日36ホールの決勝となった。それまで日本ツアーではまったく経験していなかった初めてのことだったので、ビックリするとともに生半可な気持ちではついていけない、すごいツアーだと感じた。

また、ある試合の最終日では、朝からひどい雨で天候の回復を待ってプレーが再開された。このときは、最初の時間から4時間30分遅れでのスタートとなった。いったん中断されると3~4時間待ちはざらにあるので、1~2時間のときは短く感じるものだ。サマータイムを採用しているので日暮れの午後8時45分くらいまでプレーして、翌朝6時30分から再開というときもある。とにかく、試合の規定ホール数をできうる限りの努力をして消化し、勝負を決めるという基本スタンスがある。そんなふうに毎年鍛えられた。

米国で3勝目を挙げたミネソタでの試合のときなどは、2日目がサスペンデッドになり、11ホール残ってしまった。最終日は18ホールと合わせて29ホール早朝からプレーすることになった。終わって首位タイ。プレーオフに突入。3ホール目に入りもう日は暮れかかっていた。このホールで決着がつかなかったら翌朝持ち越しという場面。相手が池に入れ私がバーディで無事終了。体は相当疲れているのにもかかわらず、気力のほうが勝っていて、どこまででもプレーしてやる、という気持ちだった。

中断はごく普通にあり、選手もその過ごし方を心得ている。「マザー・ネイチャーには勝てないよ」と口々に言い、さっと頭を切り替える。長い中断の時間、気を張り続けていてはエネルギーを使い果たしてしまう。だから、集中力を切らさないように何とかする、などとずっと気を張ってはいない。スナックを食べたり、おしゃべりしたり、新聞や雑誌を読んだり、ストレッチしたりなど、自由に動いている。再開したときによいパフォーマンスができるように心も体も休めているのだ。オンとオフの頭の切り替えが早い。日本での中断は年数回。日照時間や人為的な制約等を受けて、規定ホール数を短縮することも少なくない。米国では努力して学ぶのは技術だけではない。

プロゴルファー/小林浩美(こばやし・ひろみ)
1963年福島県生まれ。89年にプロ初優勝と年間6勝を挙げ、90年から米ツアーに参戦、4勝を挙げる。欧州ツアー1勝を含め通算15勝。現在、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)理事。TV解説やコースセッティングなど、幅広く活躍中。所属/日立グループ。
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