工場一筋トヨタ副社長が語る車づくりの真髄 54年現場で働く匠の思いは東大生に届いたか

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会社が成長する中で迎えた危機が2008年のリーマンショックだ。トヨタも初めて巨額赤字に転落したが、翌年には回復基調に入り危機を脱した。「なぜそんなに速く回復できたのかとよく取材を受けたが、われわれは何も変わったことをやっていないと言ってきた。モノをつくる心や理念は『トヨタウェイ』、モノのつくり方は『トヨタ生産方式』。この2本の柱をずっと粛々と守りながら、良品廉価な車を作ってきただけだ」と話した。

東大生たちもかつて授業で学んだであろうトヨタ生産方式については、「一言で言えば徹底的にムダを排除した原価低減」と説明。必要なものを必要なときに必要な量だけ造る「ジャストインタイム」はその基本だ。

一方で反省もある。「リーマン前には世界中で毎年50万台ずつ増産していき、ラインをどんどん作っていたが、それが設備余剰になってしまった。知恵や工夫、技術を入れない設備をどんどん並べてしまった。まさしく無駄なラインを作った結果だ」と述べた。最新設備を発注してロボット化や自動化を進めた結果、「設備が複雑となり、コストが高くなった。故障しても現場で直せない。生産性は落ちていった」という。

リーマンで手作業の重要性に気づかされる

だからこそ、ロボット化や自動化が進む中でも手作業の大事さを改めて訴える。トヨタでは同じ自動化でも人が関係することを重視する「自働化」という漢字を使うことも説明した。

「人がとことんこだわって手作業でラインを作り込み、改善の積み上げで作業を簡単にしていく。誰がやっても同じ作業となるようにしたうえで、自働化するのが基本だ。そうすることで、シンプル、スリム、フレキシブルなラインになる」と断言。

講演会の会場には板金で作り上げたという鉄のグローブが展示されていた。手作業の集大成だ(記者撮影)

その上で、「手作業が技能の原点だ。腕の良い職人の作業を数値化して自働化し、さらに高いレベルの職人がそれを超えていく。決してロボットが勝手に自働化をしたわけではなく、すべて人がしたことだ。ロボットより高いレベルの人を育てることを大事にしている。匠の技能とデータ化や自働化による技術がスパイラルアップして進化することが必要」と話す。

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