JR博多駅で「札幌ラーメン」が奮闘するワケ とんこつでなく「みそ」で攻勢、狙うは地元客

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大庭氏が地元の人に聞いて回ったところ、真っ先に名前が挙がったのが「川端どさんこ」だった。地元の老舗で、店舗は上川端町にある1店のみ。行列ができる店として有名だ。もし博多めん街道に出店してくれれば、地元の人は間違いなくやってくる。

博多川端どさんこを運営する岩永商店の岩永太郎代表(左)と博多めん街道を運営するJR博多シティの大庭敏夫氏(右)(記者撮影)

岩永氏に初めて出店を打診したのは、「2~3年前の春ごろ」(大庭氏)。岩永氏は首を縦に振らなかった。店を出さないかという話は他社からそれまで何度もあったが、岩永氏はすべて断ってきた。「川端の1店だけで十分食べていける」と思っていたからだ。

しかし、大庭氏はあきらめずに何度も足を運び続けた。岩永氏は提案を聞いているうちに少しずつ心が動き、ついに出店を決めた。

客の満足度は顔を見ればわかる

博多めん街道にやってくる観光客の多くはとんこつラーメンを食べたいはず。そこへ札幌ラーメンの店を出すのは不安もあったのではないか。これについてを岩永氏は言下に否定した。「売り上げ1位になろうとは思っていませんから」。

岩永氏の信条は「いい仕事をしたい」。それだけだ。しかし、昨年6月に博多めん街道に初出店した際、今の場所とは違う仮店舗での出店だった。その場所は設備上の理由から強い火力を出せない。そのため、人気メニューの1つ、やきめしの出来栄えが思うようにならなかった。

やきめしを食べた客の顔が気になった。「長年この商売をやっていると、お客様が料理に満足しているかどうかは顔を見ればわかります」。もっと、火力が欲しい。岩永氏は悔しかった。

今年4月、店舗が現在の場所に移転し、十分な火力が得られるようになった。ようやく思いどおりのやきめしが作れるようになり、岩永氏は食べ終えて店を出る客の笑顔に手ごたえを感じた。それと前後して、「あの川端どさんこが博多駅に店を出したらしい」「川端まで行かなくても食べられる」。博多駅周辺のオフィス街で話が広まり始め、ようやく地元客を中心に客足が増えてきた。

博多めん街道ではとんこつラーメンの名店がしのぎを削る(記者撮影)

相変わらず観光客は素通りしているが、大庭氏は「最近では、関東でも話題らしいですよ」と話す。もし、「博多駅の札幌ラーメン」を求めて全国各地から客がやってくる日が来るとしたら、それはご当地ラーメンの枠を超えて味が評価された証しである。その日はそう遠くない時期に訪れるかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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