アスペルガーに悩む人が、うまく働く方法 「できる」と「できない」の差を理解しよう

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3つ目は、誰かに文章を1文読んでもらうなり、YouTubeなどで動画を流して途中で止めるなりして、5〜10秒後(その間は別の作業や思考を行なう)に同じ文章を復唱すること。最初の文章を自分で読んでしまうと記憶してしまって意味がないので、必ず誰かに読んでもらうか、再生や停止が可能なデバイスを使って行う。

「アスペルガーなのでできません」はダメ

さらに、ワンステップ上の訓練として、ワーキングメモリーの練習をしながらお手玉や料理などをやると、同時並行の機能が鍛えられるという。これは普通の人でも難しいように感じるが、吉濱氏はこのくらいの訓練が必要だと語る。

「アスペルガーは仕事のマニュアルがないとパニックになってしまい、優先順位もわからなくなってしまいます。でも、同時並行の世界の中で生きないといけないのなら、このときはこれをやる、とルール化して取り組んでいかないといけません。

いちばんいけないのは『私、アスペだからできません』と開き直ることです。確かに、どんなに頑張ってもできない面が出てくるのは事実なのですが、それを初めから仕方ないんですと言っちゃうと、その人もいじめに遭うし、周りもイライラしちゃうし、アスペルガーの社会的な印象も下がってしまいます。

だから、『アスペルガーだから苦手な分野もあるけど、一生懸命訓練して克服しようとしています。すみませんが、少しお待ちを』と言えば評価は上がります」

ワーキングメモリーの訓練のほか、ストレスマネジメントやメタ認知(自分を客観的に見る訓練)、代謝を上げるための有酸素運動も効果的だという。発達障害ではない定型発達の人と比べると、生きづらさを努力でカバーしないといけないため、大変なことが多そうだが、これからの日本はアスペルガーの人は生きやすくなると吉濱氏は指摘する。

「先ほども言ったように、発達障害の場合はスペシャリストが多い。ある程度技術が発達すると、無駄が大事なことになってきます。スペシャリストはこれまでは仕事としては必要なかったことを仕事にできるんです。

たとえば、本来服は外界の刺激から身を守るために着るものですが、実用性がある程度まで達するとデザインを求められます。そうすると、デザイナーという職が生まれますよね。また、アスペルガーは鉄道やゲームなど、自分が興味のあることにおいてはとことん詳しいです。技術が発達すると、そのエンターテインメントを生かせる社会インフラがより整っていきます。しかも、障害者雇用枠で守られやすいというメリットもあります」

発達障害・アスペルガー症候群は生きづらさの点ばかりがフォーカスされるが、明るい未来が待っている可能性もある。今、アスペルガー症候群の症状のため仕事や社会生活に支障を来して悩んでいる人も、訓練と同時にアスペルガーのとらえ方を変えると、きゅっと締められていた生きづらさの圧が少し緩まるのではないだろうか。

姫野 桂 フリーライター

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ひめの けい / Kei Himeno

1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをしつつヴィジュアル系バンドの追っかけに明け暮れる。現在は週刊誌やWebなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好きすぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。趣味はサウナ。

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