東急池上線無料デーで露呈した「沿線内格差」 大盛況「戸越銀座」と対照的に閑古鳥の駅も

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そしてもう1つ気になったのが、人の広がりの弱さだ。たとえば戸越銀座では、商店街から1本路地裏に入ると、あっという間に人がいなくなってしまった。このあたりの各商店街は徒歩数分で連絡できるほどに近接していて、歩いて巡りやすい。しかしそういう「まち歩き」をしている人は少なかった。

石川台の商店街も訪れる人はまばら(筆者撮影)

これには東急がフリー乗車券と一緒に配っていた「生活名所」の地図が原因としてありそうだ。「生活名所」という「スポット」だけが載っているシンプルな地図で、とにかく距離感がつかみづらい。また商店街をはじめとした「面」がわかりづらかった。実際、駅の近くを少し歩いてすぐ引き返す人、駅前だけ見て駅に戻る人の姿が少なくなかった。「降りてみたはいいものの、どこに行ったらいいのだろう」という声も聞こえてきた。

東急電鉄は池上線の魅力を引き出せるか

池上線の魅力は歩いてまちを巡れるところにある。駅間も短く、ほかの路線と隣接しているため、駅から駅まですぐ歩ける。また、人口密度が高いので、商店街をはじめとした生活スポットが至る所にある。さらに高低差があるところが多いので風景の変化も楽しみやすい。

こうしたまち歩きを楽しみやすい場所であるうえに、開発が行われていない昔ながらの飾らないまちの表情を感じながら歩くことができる。これは池上線にとっての強みであると同時に、沿線住民が魅力に感じているところだ。ゆえに東急電鉄には「まち歩き」にもっとスポットを当てて池上線のPRを行っていってほしい。

今後東急電鉄では沿線の和菓子屋さんのスタンプラリーを中心としたイベント「わフェス」や「生活名所」プロジェクトへの沿線住民の参画といったプロジェクトを行っていくという。

今回のフリー乗車デーをきっかけにひとまず知名度は向上した。しかし、これは池上線が「選ばれる沿線」になるためのプロジェクトがスタートしたにすぎない。向上した知名度を今後いかに下げないか。そして、いかに「もう1度」沿線に来て魅力を感じてもらうか。東急電鉄の取り組みの真価が問われるのはこれからのこととなる。

鳴海 侑 まち探訪家

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なるみ ゆう / Yu Narumi

1990年、神奈川県生まれ。大学卒業後は交通事業者やコンサルタントの勤務等を経て現職。「特徴のないまちはない」をモットーに、全国各地の「まち」を巡る。これまで全国650以上の市町村を訪問済み。「まち」をキーワードに、ライティングをはじめとしたさまざまな活動を行っている。最新の活動についてはホームページ(https://www.naru.me/)やX(旧・Twitter、https://twitter.com/mistp0uffer)で配信中。

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