東名で夫婦死亡、25歳男を殺人罪に問えるか

「過失運転致死傷罪」で逮捕された理由

端的に申し上げると、ほとんどの人の違和感は、「これって『うっかり』じゃなくて『わざと』なんじゃないの?」という点にあるのではないでしょうか。

見落としていたり、スピードを出し過ぎてしまったという無意識の場合と異なり、本件は「車を止めさせる」という明確な意思を持った行為なので、「過失」に見えづらいのです。過失と考える場合には、「そんな危険なところにうっかり人の車を停車させた」というようなところをとらえることになるのですが、それはちょっと立論がテクニカルに過ぎ、むしろ「危険な割り込みをした」ところ「そこから停車というワンクッションが入って大事故が起きた」という印象のほうが強いといえます。

「うっかり」と「わざと」は明確に分かれてない

こうしてみると、人間の「うっかり」と「わざと」の間は明確に分かれているわけではなく、どれが「1つの行為の流れ」で「どこで行為が途切れているのか」という点にもあいまいな線しかないということがわかってきます。

そもそも、この危険運転致死傷という条文が出来上がった経緯もそうした「すきま」の事件が原因でした。大きな引き金になったと言われる事件は、1999年に飲酒運転のトラックが乗用車に追突し、乗用車に乗っていた幼児2人が焼死した事件や、2000年に飲酒運転・無免許運転で検問から猛スピードで逃亡中の乗用車が歩道に乗り上げ、歩行中の大学生2人を死亡させた交通事故などです。

多量の飲酒をして自動車に乗るなど、事前に明らかに意図的な行為がある場合、これを「うっかり」でとらえ、軽い処罰をすることはあまりに不当と考えた結果、法改正が行われ、重い責任を問うものとしたわけです。ワンクッション前の意図的な行為をとらえるという趣旨では、今回の事件もその延長線上にあるような性質は感じます。

ただ、立法担当者たちが苦心してこの条文で広げた網も、本事案そのものにはわずかに届いていないように感じます。罪刑法定主義の観点から本来の条文の想定より適用を広げることはやはり認めるべきではありません。微妙なところですが妨害運転致死傷は認められないと考えるべきでしょう。むしろ刑法208条の2を改正して、こうした事案に対応できるようにする、ということが検討されるべきと思われます。

殺人罪(死刑ないし5年以上の懲役)の適用はありうるのでしょうか。殺人罪を問うためには人を殺したことが必要ですが、「人を殺した」と言えるのかが問題になります。

本件で言えば「自動車を高速道路の追い越し車線に停車させる行為」が殺人の実行行為に当たりましょうか。もちろん、因果の流れを見ると、その結果人が死んでいるわけですが、通常それをすると死ぬ因果関係があるような行為でなければ殺人とは認められません。

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