弁護士失墜の大元凶、ロースクール解体勧告 「負のスパイラル」が止まらない弁護士業界の内情

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国の弁護士の所得に関するアンケート調査によれば、新人弁護士の所得(中央値)は07年の659万円から、10年には480万円へと落ち込んでいる。さらに状況は悪化している。「一般民事中心の事務所のイソ弁(勤務弁護士)なら、月収30万円で御の字」(20代弁護士)「同期には月収20万円台もざらにいる」(別の20代弁護士)といったあんばいだ。

それでも給料が出るだけマシだ。就職できなければ、ノキ弁、もしくは研修所卒業直後に自分の事務所を立ち上げ「即独」することになる。

イソ弁であってもほとんどの弁護士は個人事業主扱いのため、社会保険料はすべて自己負担。弁護士会費も重い。東京では新人は月額2・3万円だが、5年目には5万円にハネ上がる。会員数の少ない地方では、会費は年間100万円を超える。

こうした若手の窮状に付け込んで使い捨てにする「ブラック事務所」も少なくない。「新人の名前を勝手に使って利益相反行為を行っている」「新人を大量に採用したうえで、3カ月後に大半を自己都合退職に追い込む」「弁護士に認められた職務上請求を悪用して、目的外の戸籍謄本や住民票を取らせる」。若手弁護士たちからは体験談が次々と挙がる。

かつて5年超が目安だったイソ弁期間も短期化。経験不足の若手が独立し、実務にも支障が生じている。「裁判所から指摘されても何が足りないのか理解できない若手が多い」「法的主張がまったくなく、人格非難に終始する準備書面が増えた」と、中堅・ベテラン弁護士は嘆く。

結局すべて予備校頼み ロースクールの内情

政府は7月、司法試験の年間合格者数を3000人程度とする数値目標は「現実性を欠く」として、正式に旗を降ろした。ただ大幅減となるであろう、新たな目標人数を定めることはできなかった。3000人という合格者数を前提に制度設計された、ロースクールの扱いに窮してしまうためだ。

ロースクールは法学部以外の学生や社会人など法学未修者を積極的に受け入れ、知識ゼロから3年間の学習で7~8割を司法試験に合格させるとして、全国で74校が立ち上げられた。司法研修所で行われてきた実務教育の一部まで担うとされた。

その想定は大きく覆されている。昨年の司法試験合格率は25%まで落ち込んだ。先の検討会議は司法試験の成績不振校などへの公的支援削減を主張し、統廃合を促す。

だがこれでは何ら本質的な解決には至らない。真の問題は、ロースクールでの教育内容が徹頭徹尾、法曹志望者のニーズとは懸け離れていることにある。

「ロースクールでは法律を基礎から教えてくれるものだと思っていたが、違っていた」。都内の中堅ロースクールを修了した女性(26)は振り返る。法学未修者に基本科目を教える研究者の教授からは、予習で教科書に当たる基本書を読んでくるよう言われるが、法律知識がゼロなので理解は進まない。結局、予備校の入門講座で補った。

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