「休まない上司」が部下の迷惑でしかない理由 「ブラック」な残業と「ホワイト」な残業の差

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本来は、時間外勤務をせずに、与えられたミッションを就業時間内にきちんとこなして定時に帰るという人こそが評価されるべきです。あるいはマネジャーが「この仕事を計画に沿って遂行するためには、これくらいの能力の人が何人いる」ということを会社に対して提言し、それを実現するための努力を行うことが必要ではないでしょうか。

「構造的」残業は、新たに人を雇わなくても、既存のメンバーが残業して仕事を回すという方法が、会社にとって最もコストが安いから起こります。つまり経済的合理性が高いということです。

しかし、これはマネジャーの甘えに過ぎません。組織やチームに対して、本来なら行うべき正しいマネジメントや判断ができていないということだからです。したがって、「構造的」な残業が発生しているのであれば、それは基本的にはマネジャーの力量不足だということになります。さらにいえば、「サービス残業」を強いることは、当たり前ですが労働基準法違反です。この領域に踏み込んだら、「ブラック」であることは間違いありません。

必要な人員を確保し、メンバーの能力を伸ばして、特定の人に負荷をかけなくても、残業しなくても、業務目標を達成する。これがマネジャーの当たり前の仕事です。

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ただし、短期間であれば、特別な負荷をかけて、あえて残業の協力をメンバーに依頼する場合もあります。たとえば、決算期直前になって、売り上げがどうしてもチーム全体の目標に足りない。2週間だけ総力を結集して働くことで目標を達成しよう、というケースです。

その場合は、いま置かれている環境に対して、メンバーの十分な理解を得るために、「あと2週間で、これとこれとこれをやれば、この目標は達成できる」という明確で論理的な裏付けを示し、合意を得るプロセスが必要です。その場合、「構造的」ではありませんから、納得したメンバーにとって、その残業は「ブラック」に受け止められることはないはずです。

どんな人が「優れたマネジャー」なのか?

私たちの生活における仕事の比重がいっそう高まり、仕事とプライベートのバランスがますます求められる現代では、どれほどの能力に恵まれたとしても、1人のマネジャーがすべての問題を解決することは不可能です。個人ではなく、優れたマネジャーと個性あふれる自立したメンバーが信頼し合い協力する組織でなければ解決できないのです。どんなに優れたマネジャーでも、メンバーが持つ能力をすべて備えているわけではありません。

ですからマネジャーは、メンバーが自分の限界を取り払い、その潜在能力を存分に発揮できるようにすること。メンバーの成長と、その機会を増やすこと。チームの生産性を高めること。そのための自由闊達な働きやすい組織風土をつくることこそ、優れたマネジャーの真のミッションといえるのです。

高野 孝之 スマートライン社長 兼 CEO

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たかの たかゆき / Takayuki Takano

慶應義塾大学法学部卒業後、日本IBM入社。副社長補佐、サービス産業営業部長を経てIBM本社(ニューヨーク)コーポレートストラテジー勤務後、5社(三菱商事・日立製作所・東芝・三菱電機・日本IBM)の共同出資による株式会社ピープル・ワールドを設立、代表取締役社長に就任。1997年に日本IBMに帰任し、2001年に理事就任。IBMアジア太平洋地域の事業責任者などを歴任。2011年にスマートライン株式会社を設立、現在に至る。株式会社エクストーンなど複数企業の社外取締役を歴任し、2016年より広島県産業振興アドバイザーを務める。

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