マッキンゼー「強さの秘密」はどこにあるのか アイコン化した強い組織の研究<1>

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入社のプロセスが終わったあとも、マッキンゼーはチームがエースプレーヤーだけで構成されるよう、つねに気をつけている。

そのために、広範囲な社内トレーニング・プログラムも用意している。さらに、同社には評判の悪い「アップ・オア・アウト」という原則が1950年代からある。所定の期間内に昇進できない者は、去ることを求められるのだ。

入社する10人のうち、パートナーになれるのは約1名

『アイコン的組織論ー超一流のコンサルタントたちが説く「能力の好循環」』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

コンサルタントとして入社する10人のうち、パートナーになれるのは約1名。そしてそこでも、評価と選定の目は緩むことはない。「マッキンゼーは、評価に膨大な時間と予算をかけている」とロバート・レイベスティンは言う。RCOファウンデーションの元会長で、マッキンゼーのシニア・パートナーかつマッキンゼーEMEAのヘッドだった人物だ。「一年のうち数週間は、大西洋の向こう側のシニア・パートナーたちのパフォーマンスの評価をしていた」。

意外にも、アップ・オア・アウトで去ることを求められても、従業員は会社を恨んだりはしないようだ。評価は完全に仕事の質を基にしており、透明性が高く、フィードバックもつねに与えられているのがその理由だろう。つまり全員がいつでも自分の評価を把握しているので、退職を求められるのが、思いがけないことにはなりえない。

ほとんどの場合、該当する従業員はこうした事態を避けるため、「先行して退職」をする。さらにマッキンゼーでは、退職する従業員が次にいい職につけるよう、サポートをしている。しかも長期にわたってずっとだ。オランダのリンクトインの元ディレクター、ユージニー・ファン・ヴィーヘンは、マッキンゼー時代のメンターとは6カ月毎にランチをしている、という話をしてくれた。

コンサルタントとして働いていたのは短期間だったが、いまでもメンターは彼女にキャリアのアドバイスをしてくれ、人脈を広げる手助けもしてくれるという。「ザ・ファーム」で一度でも働いたことのある人は、ずっとファミリーの一員なのだ。

こうしたアプローチの結果は、自然と出る。マッキンゼーは戦略マネジメント・コンサルティング会社として、最も大きく、よく知られていて、一流だ。同社は業績については特にコメントしていないが、2010年の年間取引高は約70億ドルと予測され、従業員数は1万7000人、うち9000人がコンサルタントである。

さらにいうと、会社を出た人たちの、広大なネットワークがあり、そこには多くのトップ・エグゼクティブが含まれる。ボーダフォン、ドイツポスト、リード・エルゼビア、ボーイング、BMWのCEO、アメリカン・エクスプレスの元CEOのハーヴェイ・ゴーラブ、IBMの元CEOのルイス・ガースナー、フェイスブックのCOOのシェリル・サンドバーグ― 全員がマッキンゼー・ファミリーのメンバーだ。『フォーチュン』が同社を「最高のCEOの供給源」と称したのも根拠のないことではない。

ザビエ・ベカルト、フィリス・ヨンク、ヤン・ラース、フェボ・ウィベンス 『アイコン的組織論』著者

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『アイコン的組織論』(フィルムアート社)著者。ザビエ・べカルトは設立して間もない戦略コンサルティング会社ベントハーストの共同創立者。フィリス・ヨンクはビジネス革新に情熱を持つ戦略コンサルタント。ヤン・ラースは、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の奏者兼事務局長。フェボ・ウィベンスはペンシルベニア大学ウォートン校にて戦略についての博士研究を行っている。

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