消費増税に耐えられる?カギ握るのは春闘だ 日銀短観に見る消費関連業種の厳しさ

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ただ、それ以外の部分を細かく見ていくと、注意が必要なところもある。大企業非製造業の業況判断DIは23%ポイントとなり、前回の水準を維持している。だが、業種別に見ると卸売り(8ポイント改善)、対事業所サービス(7ポイント改善)など好調な業種がある一方で、とりわけ個人消費関連の業種で悪化しているのが気になる。飲食・宿泊サービス(7ポイント悪化)、通信(6ポイント悪化)、小売り(2ポイント悪化)などだ。

こうした業種では人手不足も一段と深刻になっている。とりわけ飲食・宿泊サービスは雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)がマイナス61(前回マイナス57)と、非製造業全体(マイナス34、前回マイナス30)と比べても極めて深刻な状況で、業況判断の重しになっている可能性がある。全般的に、大企業よりも中堅・中小企業で人手不足感が強い状況も変わらない。

人手不足でも限定的な値上げと賃上げ

にもかかわらず、値上げは進んでいない。大企業の販売価格判断DI(「上昇」-「下落」)は製造業で1ポイント改善の一方、非製造業では1ポイントの悪化。先行きはそれぞれ小幅に悪化している。運輸など一部の業種では人手不足による賃金上昇を反映した値上げはあったが、全体には広がっていないことが見て取れる。総括すれば、大企業製造業を中心に景況感は改善しているものの、内需の弱さから業種や企業規模によっては懸念が残り、物価上昇に勢いは見られないということだ。

仮にこうした状況が2019年10月まで続けば、消費増税が個人消費の一段の冷え込みを招く可能性は十分ある。「それまでに、消費増税に耐えられるだけの賃上げが行われることが望ましい。来年・再来年の春闘で、どれだけ景気回復の実感を与えられるかが重要だ」と、ニッセイ基礎研究所の上野剛志・シニアエコノミストは話す。世界経済の成長拡大の恩恵を受けており、また春闘の流れを決める大企業製造業が、どれだけ賃上げできるかが注目される。

前回と比べて増税の影響は限られる可能性もある。東京五輪直前のタイミングであり、五輪関連の設備投資などの需要が見込まれるためだ。さらに自民党の公約にあるような軽減税率や教育無償化といった措置があれば、家計への負担は減少するだろう。

ただし、本来、国の借金返済に充てるはずだった消費税の増収分を教育に回したり、消費増税を先送りし続けたりすれば、財政再建への道は遠のく。短期的な景気の腰折れだけでなく、将来世代にツケを回すことの是非を、きちんと議論する必要がある。

平松 さわみ 東洋経済 記者

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ひらまつ さわみ / Sawami Hiramatsu

週刊東洋経済編集部、市場経済部記者を経て、企業情報部記者

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