ドイツの高級新聞社が挑む「分断社会の是正」 メディアの力で社会の両極化は止められるか

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「サイト上にはコメント欄があって、読者はさまざまな感想、意見を載せてくれるが、実際に読者同士が1対1で会うのはまったく異なる体験になる」

ツァイト・オンラインの記者も5組の議論の場に参加し、その模様をサイト上でリポートした。

選挙の予想をシリアスに受け取るな

投票日直前のツァイト紙の1面

ファイグル氏が最後に紹介してくれたのが、選挙予想をそのまま信じないようにするための防衛策だ。

今回のドイツの下院選挙では事前の選挙予想がほぼ実現したものの、メルケル首相の与党勢力の下落度(311議席から246議席)、そして右派政党AfDの予想外の健闘(ゼロから94議席)は多くの人にとって衝撃となった。

「支持率、得票率の予想には必ず3%程度の誤差が出る」ため、世論調査会社の調査結果を掲載する場合、「どれぐらいの誤差の可能性があるかを同時に載せた」という。

また、「5人と魚」と題する試みも行った。投票結果の予想には5人の専門家の意見を載せるとともに、水槽に入れた魚の動きも掲載した。魚が水槽の一方の側に長くいれば「メルケル勝利」、逆の側にいればライバルとなった「社会民主党のマルティン・シュルツ氏勝利」と見なした。「魚を予言者にして、毎日、予測してもらった」。

魚が選挙を予測する?(ツァイト・オンラインのウェブサイトより)

しかし、魚を使った本当の目的は「選挙予想をあまりまじめに受け取るな、と言いたかった」。

D17のプロジェクトは年内いっぱいは続く。来年以降、地方ジャーナリズムの開拓など、部分的に残してゆく予定だという。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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