日本の美術館には、一体何が欠けているのか 欧米で当たり前にやっていることとは?

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英国の国立美術館、テート・モダン。もとは発電所だった建物をリノベーションしてできた。欧米では、古い建物とアートが見事にマッチングしている。館内の雰囲気はHPからも(写真:大林剛郎氏提供)
欧米に比べ遅れている公的不動産活用をどうすればいいのか。経営と街づくりの視点から鋭く切り込む木下斉(一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事)、「共通価値経営」を標榜する野尻佳孝(テイクアンドギヴ・ニーズ会長)、リノベーションなどで優れた実績を誇る馬場正尊(オープン・エー代表/東京R不動産)の3人が、ホスト兼パネリストとして毎回ゲストを迎え、「新しい日本の公共不動産のあり方」をビジネス視点で考える「パブリック・アライアンス・トーク」。
第7回のテーマは美術館・博物館など。ゲストは大林組の大林剛郎会長。多くの美術館の施工実績を持つ企業トップとしての顔だけでなく、コレクター、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の国際評議員を務める等、個人でも美術の面でグローバルな視点を持つ大林氏と熱い議論を繰り広げる(文中敬称略)。

欧米は古い建物を「リノベ」してアート化するのも上手

――まず海外の著名な国立の美術館・博物館の事例を2つ紹介します。1つ目は年間680万人が訪れるロンドンの大英博物館です。無料の博物館として有名ですが、もともとは博物学者のハンス・スローン卿のコレクション品を英国が国家として買い、国の蔵書などを加え1759年に一般公開を開始。運営は非政府組織が担い、施設維持費は寄付やグッズ販売で賄われています。同じくロンドンにあるテート・モダンは、発電所をリノベーションして2000年にオープンした現代アートの美術館。やはり入場料は無料で、韓国・現代自動車のスポンサードを受け運営されています。

大林 剛郎(おおばやし たけお)/大林組会長。1954年生まれ。1977年慶應義塾大学経済学部卒業後、大林組入社。スタンフォード大学工学部大学院留学、修士取得。1983年取締役、2009年から現職(会長は2回目)。東京・森美術館理事、ニューヨーク近代美術館や英国テート美術館の国際評議員などの役員を務めるほか、アートコレクターとしても有名

野尻:入場料が無料なのはすごいことですが、運営費などの費用はすべてスポンサーフィーなどで賄われているということですか?

大林:常設展は入場料を取りませんが、企画展などは料金を取っています。ただ英国政府のサポートが手厚いですから、運営事情は日本の美術館とはだいぶ違いますね。

――続いて海外の民間美術館の事例です。2015年、イタリアのミラノにオープンしたプラダ財団美術館は、蒸留所だった建物をリノベーションしてできました。

大林:こういう古い建物に現代美術を展示するのがいちばんカッコイイ。新しい美術館を建てることもできるのに、わざわざ古い、違う用途で使われていた建物を買い取って、そこに展示しているんです。

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