総選挙の今こそ「働き方改革」法案を読み直す 時代遅れの「日本型雇用」と決別できるか

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改正内容を見てみますと、基本理念として「労働者は、その職務の内容及び当該職務に必要な能力等の内容が明らかにされ、並びにそれらを踏まえた評価方法に即した能力等の公正な評価及び当該評価に基づく処遇その他の措置が効果的に実施されることにより、その職業の安定及び職業生活の充実が図られるように配慮されるものとすること」とあります(下線筆者)。

この内容はこれまでの日本型雇用に対して大きな変革を迫るものです。日本型雇用の特徴は、職務が特定されていないという点でした。会社勤めをしていると、休んだ隣の席の人の仕事を手伝わされた、という場面に出くわした人も多いでしょう。そして、会社のメンバーになっている正社員とメンバー外である非正規雇用の給与体系は違うことも前提になっていました。政府の方針として、職務の内容や職務に必要な能力を明らかにしたうえで、「公正な評価」を行うことを明確にしていることから、日本型雇用の大変革をもくろむ意気込みが伝わってきます。

あなたの給料はなぜ高いか、答えられますか?

また、「パートタイム労働法」はその名称ごと改正され、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理改善等に関する法律」になります。つまり、「パート+有期雇用」の法律となり、いわば非正規雇用に関する規制をまとめた「非正規法」といった性格になります(以下、「非正規法」といいます)。

改正非正規法は、正社員と非正規の待遇差について、不合理な差を設けてはならないという従前の規定に加え、非正規雇用の賃金を決定する際には、①業務内容、②責任、③成果、④意欲、⑤能力、⑥経験を考慮して賃金を決定することとしています。また、正社員と非正規の待遇差については入社時や要求時に説明することを企業に義務づけるようです。

そうすると、政府が「非正規雇用を一掃する」と述べるように、今後は「非正規だから」給料が安い、「正社員だから」給料が高いということではなく、どんな仕事をしているか、どんな能力・経験があるかが重要になってくることは間違いありません。裁判実務も、日本郵政事件(東京地裁2017年9月14日判決)など、変わり始めています。遠くないうちに最高裁判決も出るでしょう。そのとき問題となるのは、「正社員の給料はなぜ高いか?」ということです。「ドキッ」としたあなた、あなたの給料はなぜ高いか、答えられますか?

少子高齢化、労働力人口の減少という未来は、もはや確定した「事実」です。これまでの昭和スタイルの採用・配置・残業のあり方は通用しないことは明らか。今後重要になるのは、これまで新卒一括採用の壁に阻まれて採用されてこなかった人、社内に居場所がなくなり退職せざるをえなかった人、会社には残ったが戦力にならなかった人といった多様な人材が、それぞれの力を発揮するにはどうしたらよいかということです。また、どうしたら少ない人数で生産性を上げ、これまで以上の成果を出せるかを真剣に考える必要があります。

そのとき、労働法はどうあるべきか。これまでの高度経済成長モデルの終身雇用・年功序列を前提とした法律でよいのか、改革すべきか。時代は先行きに不透明感が漂い始めていますが、「どう働くか」という点も大事な選挙の争点です。一時の「風」ではなく、本質的な議論のうえに日本型雇用の未来があってほしいと切に願っています。

倉重 公太朗 倉重・近衛・森田法律事務所 代表弁護士

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くらしげ こうたろう / Kotaro Kurashige

慶應義塾大学経済学部卒。第一東京弁護士会労働法制委員会 外国法部会副部会長。日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員。日本CSR普及協会雇用労働専門委員。労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、社会保険労務士向けセミナーを多数開催。著作は20冊を超えるが、代表作は『企業労働法実務入門』(日本リーダーズ協会 編集代表)、『なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか(労働調査会 著者代表)。

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