東芝、メモリ売却契約も「不安だらけ」の船出 「関係者の合意得られず」会見は中止に

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しかし、メモリ生産で合弁を組む米ウエスタンデジタル(WD)が、自社の同意なしの合弁持ち分を売却することを「契約違反」と反対。国際商業会議所(ICC)に売却差し止めを訴えるなど、当初から波乱含み。

それでも、6月末にはベインを中心とする日米韓連合を優先交渉先と決めた。が、同連合に参加していた政府系ファンドの産業革新機構、日本政策投資銀行が「WDとの係争解決」を出資の条件としたため、売却交渉は進まなくなった。

NANDフラッシュメモリの需要は右肩上がりで伸びている(写真:東芝)

その後は日本勢によるTMC買収を最優先とする経済産業省の意向を受けた革新機構が、訴訟の取り下げを狙ってWDの取り込みに動いた。革新機構と政投銀、米ファンドのKKR、WDとの「日米連合」を組成。一時は日米連合が最有力になっていた。

だが、結局は東芝とWDの対立は解消せず、日米韓連合と日米連合の間で揺れ動くことになる。そうこうするうちに、メモリの最大顧客であるアップルの参加を取り付けた日米韓連合が20日に売却先に決まった。

もっとも、これもギリギリまで綱引きがあった。

前日の19日、革新機構が新スキームを打ち出した。日米連合からWDが離脱。将来的にTMCへ出資するオプションも放棄する提案だった。20日未明にはWDのスティーブ・ミリガンCEOが新スキームに合意するレターも提出したが、巻き返しはならなかった。結局、革新機構と政投銀は今回の日米韓連合に加わらず、「将来的な資本参加を検討する意向を表明」するにとどまった。

対決姿勢強めるWD

紆余曲折の末にTMCは日米韓連合への売却となったが、無事に売却完了できるかは見通せない。

WDはICCに数カ月で判断が出る暫定的な売却差し止めも求めると表明するなど、あきらめるどころか対決姿勢を強める。

東芝はもともと合弁の持ち分を売却すること自体問題ないという主張だが、今回の契約では、合弁持ち分を東芝に残し、その他のメモリ事業=TMCのみを売却する形でWDの訴訟を回避。合弁持ち分の売却が差し止められても、TMCの売却が差し止められなければ、契約は履行されるとしている。もちろん、WDは「それも含めて契約違反」と認めない。

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