私の人生は完全に失敗だった! 他人の成功談はおとぎ話だと思いなさい

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これまでの成功例・失敗例は役に立たない

このあたりで、やっと今回の回答(らしきもの)を出すとすれば――サルトルがこのことを強調していますし、私もそのとおりだと思いますが――あなたの人生はあなたが切り開くしかないということ、他人の成功談・失敗談、いやあなた自身のこれまでの成功例・失敗例でさえ、次にあなたが動くときには、ほとんど何の役にも立たない、ということでしょうか。

「何事も、実際にやってみるまではわからない」ということです。これって、何も言っていないようでいて、意外に元気の出るものなのですね。あなたがする「次の選択」は、これまで地上に生息した人類の誰ひとりとしてしなかった、まったく新しいものなのです。だから、それが成功したか失敗したかを決めるのは「あなた」だけなのです。

以下は蛇足なのですが、私はかなり前からあえて(あえてするまでもなく材料豊かなのですが)「自分の人生は完全に失敗だった」と思い込むようにしています。そう思い込むと「そうでもない」というささやき声も聞こえてくるのですが、そうした声を、ゴキブリをたたき潰すようにパチッとたたき潰します。

なぜなら、私にとって、「人生に成功し、幸福であり、満足して死に、そのあとは永遠の無」というほど残酷な図式はないからです。せめてこの人生が「苦悩と悲痛の連続であり、これほどろくでもない人生なら、それから去って永遠の無に突入するのもまあいいだろう」と思えるほうが幸せだと考えるからです。

最後に参考文献を掲げますが、今回は、私の本だけでは心苦しいので、サルトル『実存主義とは何か』(人文書院)を第一に挙げましょう。そのほか、私の本のうちでは、『働くことがイヤな人のための本』(新潮文庫)と『孤独について』(文春文庫)が今回の相談に関係しています。

中島 義道 哲学者

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なかじま よしみち / Yoshimichi Nakajima

電気通信大学元教授・哲学塾カント主宰
1946年福岡県生まれ。77年東京大学大学院人文科学研究科哲学専攻修士課程修了。83年ウィーン大学基礎総合学部哲学科修了、哲学博士。専門は時間論、自我論。2009年電気通信大学電気通信学部人間コミュニケーション学科教授を退官。現在は「哲学塾 カント」を主宰し、延べ650人が参加した。著書は『働くことがイヤな人のための本』『私の嫌いな10の人びと』『人生に生きる価値はない』(以上、新潮文庫)など約60冊を数える。

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