金正恩の「狂人っぷり」は一体どこまで本物か 実は挑発が一線を越えないようにしている?

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それは、自分の命を顧みないのが狂人の特徴だからだ。つまり、金正恩は自殺願望者のキャラを決め、演技を徹底するつもりだと考えられる。その理由は核兵器と同時に、狂人の評判がほしいからだ。

確かに、核兵器の保有は大きな抑止力になる。でも、誰もが北朝鮮と戦争をする気は最初からなさそうだ。そして、事実上の保有は否定できないが、アメリカが北朝鮮を核保有国として正式に認める道筋はない。放棄をしないかぎり、国際社会への復帰は期待できないはず。つまり、核兵器を持っておとなしくしているだけなら、北朝鮮が置かれる状況は今と何も変わらない。

全世界を人質に

だから、「北朝鮮は抑止力がほしくて、自己防衛のために動いている」という一般論以外の可能性を考えるべきだと思う。それが狂人理論の応用編。

普通の核保有国ではなく、狂人が仕切る核保有国だとしたら、上記のシナリオと話は違う。「死ぬ覚悟はできている。いつでも核戦争を起こせる」と、常に指を発射ボタンに置いているスタンスが通用すれば、いろいろなわがままは聞いてもらえるはず。北朝鮮が核を放棄しなくても、規制緩和や国交正常化、有利な貿易条件などを要求してくることは目に見えている。

ソウルや東京だけではなく、全世界を人質に取っている状態なら、国際社会へ復帰することなしにアウトロー国家の道を選ぶ可能性もある。いつでも他国を巻き込んで無理心中を図りそうな狂人だと思われれば、幾度も罪に目をつぶってもらえる。偽札製造、麻薬や武器の取引、人身売買などを今まで通りに続けても、さらには核やミサイルの技術を第三国やテロ組織に移転・輸出をしても、どんな反社会的な行動をしても、誰にも取り締まりはできない。

こんな恐ろしい計算が、北朝鮮の動きから垣間見えるかもしれない。正常者は核兵器なんて使わないだろう。しかし狂人ならば分からない。「狂人」だと思われて初めて、核兵器の存在が光る。そんな考えから、狂人だと思われるように、核戦争になりかねないぎりぎりの行動を取る。そう見ると、正常者が狂人を演じ切るのも合理的な判断かもしれない。

果たして、どちらなのか。世界一の狂人なのか、それとも世界一の狂人理論者なのか。どちらか分からないからこそ効果的だし、分からないからこそ怖い。どちらにしても、世界一なのは間違いないだろう。そういう意味で「会えたら光栄だ」とトランプは言ったのかもしれないね。

「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

世界のニュースを独自の切り口で伝える週刊誌『ニューズウィーク日本版』は毎週火曜日発売、そのオフィシャルサイトである「ニューズウィーク日本版サイト」は毎日、国際ニュースとビジネス・カルチャー情報を発信している。CCCメディアハウスが運営。

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