カンボジアの「独裁化」を看過してはならない 日本人が命まで懸けて民主化に貢献した事実

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1993年5月のカンボジア。日本人選挙監視要員と国連PKOで派遣された自衛隊員とが打ち合わせ(写真:共同)

北朝鮮の核兵器やミサイル開発問題などの陰に隠れて世界的には全く注目されていないが、カンボジアのフン・セン首相の強権政治が総選挙を一年後に控える今年、さらに顕在化している。

フン・セン首相は野党潰しとメディア弾圧に走った

9月初め、最大野党・救国党のケム・ソカ党首が深夜に自宅に押し掛けてきた警察官に突然、逮捕され、首都プノンペンから200キロ離れたベトナム国境近くの留置所で拘束されている。さらに政権に批判的な報道を続けていた英字紙「カンボジアデイリー」社が脱税容疑で630万ドル(約6億9000万円)を課せられ、支払い不能で9月初めに廃刊に追い込まれた。このほかにも政権に批判的な複数のメディアが似たような弾圧を受けている。

現地のメディアなどによると、ケム・ソカ氏の逮捕容疑は国家転覆罪で、フン・セン首相は「外国勢力と共謀して国家を転覆しようとしていたため急いで逮捕した」と説明している。逮捕の根拠となったのは、ケム・ソカ氏が2013年におこなった演説の映像だった。この演説でケム・ソカ氏は「米国の専門家のアドバイスを受けて、カンボジアに平和で民主的な変化をもたらしたい」と語っていた。数年前の演説が、なぜか最近ネット上にその映像が流れて逮捕につながったという。

党首逮捕を受けて救国党員は党本部に集まることも、集会を開くことも、政治について議論することも禁じられている。そればかりかケム・ソカ氏の有罪が確定すると、救国党は解党を強いられる。これでは独裁国家並みの徹底的な野党潰しである。

筆者は2015年にプノンペンを訪れる機会があった。ポル・ポト政権の崩壊後、長く内戦が続き荒廃していた市街地はきれいに整備され、多くの人々が行き交い活気にあふれていた。その中で目立ったのが飲食店やオフィスなどを示す中国語の看板の多さだった。また道路や橋などのインフラ整備のかなりの部分が中国の支援で実施されていた。近年、政治や経済の分野で中国の影響力が著しく増しているのだ。一方で、ODA予算が大幅に削られている日本は「とても中国に太刀打ちできる状況ではない」(当時の日本大使館職員)状況だそうだ。

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