メキシコ地震、市民が見た心底恐ろしい光景 自宅付近の建物は今も倒壊しそうなまま

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テクノロジーも今回の地震においては多くの役割を果たした。電話回線が切断され、多くの人が家族や友人と何日も連絡が取れなかった1985年とは対照的に、今回はメッセージングサービスを通じて誰もが家族などの連絡を取り合うことができた。いくつかの大手電気通信会社は、誰もがより情報発信をしやすくなるように、WiFiサービスを無償化している。

メキシコ人らしい「連帯感」

物資も続々と集まっている(筆者撮影)

日本の東日本大震災では、日本人が落ち着いて行動している姿に世界から称賛の声が上がった。一方、メキシコでは家を失った人や、家にいても安心できないという人に対して、自らの家を避難所として開放する人が出てくるなど、メキシコ人らしい連帯感に対して称賛の声が上がっている。医師や獣医師、土木技師、建築家なども無料でサービスを提供している。レストランでは無料の食事を提供し、一部のホテルは休憩所やシャワー施設を開放している。

また、病院もすべての患者を無料で治療している。これは、医療サービスが非常に高額で、高価な保険に加入している人しか治療を受けられないメキシコでは、特筆すべきことだ。葬儀屋も、最も悲劇的な状況に直面している人々に対して無料サービスを提供している。日本、ドイツ、イスラエル、ホンジュラス、スイスなど国際援助隊もメキシコシティに到着し、すでに支援活動を始めてくれている。

多くの人が復興のために貢献しようとしている一方、汚職事件や政治腐敗が深刻なメキシコでは、国民の間でかつてないほど政治家に対する不満が高まっているのである。こうした中、すべての政治家に対して、2018年に行われる大統領選挙に向けたキャンペーン資金などを、今回の地震の復興に充てるように求める声が出始めているのだ。

メキシコシティに住むのはずっと夢だったが、欧州に住む私の家族や友人は、犯罪や組織的暴力、汚職など、メキシコの悪い面について相当懸念していた。その中には、自然災害も入っていた。が、すべての場所にはそれなりのリスクがある。メキシコ湾周辺ではハリケーンが起こるし、アジアには核の脅威がある。ベネズエラでは政治的弾圧が行われているし、欧州にはテロの脅威がある。心配する理由を挙げればきりがない。

怖くないといったらウソになるだろう。ここ数日間は夜もろくに眠れない。実は、当初は9月22日にここを出る予定となっていた。1年前、ここにきた時に往復チケットを買っていて、そのフライトが9月22日だったからだ。

滞在を延長することを考えていたものの、地震の直後は一瞬、予定通り22日に出発しようとも思った。でもその時、なぜ私がこの街に恋をしてしまったのかを思い出した。いろいろなところで出会ったすてきで思いやりのある人たち、ぜいたくな自然、見事な景色、さわやかな晴れの日、おいしい食事とフルーツ、そして豊かな文化――。

もちろん、自然災害というリスクはある。それは承知の上だ。だが、私たち誰もが、できるだけ早く日常を取り戻したいと思っている。今回の災害は、建築物の安全基準や政治的責任、そして強固で意識の高い社会を作流ことにおいて改善の道を開いたのだ。

【9月23日11時10分追記】9月22日に帰国するとありましたが、翻訳ミスがあることがわかりましたので、修正いたしました。
ノエミ・ロサラ 戦略コンサルタント

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のえみ・ろさら / Noemi Rosala

フランス出身。ドイツ、オーストラリア、ポーランド、イタリアに居住後、1年前からメキシコシティに在住。

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